そして花火大会当日がやってきた。
まだ開店していないバンプアップの前に立っているのは浴衣姿のタマキとカナエだ。
ぱたぱたとうちわで扇ぐのがなんとも夏らしい。
そこで待っているうちにナオユキやユウト、アラタやレイがやって来て全員が揃った。
タマキはトキオも誘ったけれど人混みが苦手だとやんわり断られてしまった。

「じゃあ行こうか」

タマキがそう言ったのを合図にみんなが歩き始めた。
途中の出店でヤキソバを買ったり、カナエが射的で景品をごっそり頂いて店主に青い顔をさせたり、その景品をめぐってアラタとレイが言い争っていたり。
いつもと同じような騒がしさの中、みんな浮かれているのがわかる。

「なんか嬉しそうだね」

集団の一番後ろでそんな背中を眺めながら歩いていたタマキにカナエが声を掛けた。

「みんな楽しそうだなと思って」
「そうだね」
「お前も楽しんでるか?」
「タマキ君と一緒にいるだけで楽しいよ」

へにゃっとしたいつもの笑顔でさらりと恥ずかしいことを言う。
タマキが頬に暑さのせいではないはない熱さを感じ、バカと言ってもカナエはクスクスと笑うだけだ。
恥ずかしさからぷいっと顔を逸らしたタマキの指にカナエが絡める。

「誰かに見られたら」
「誰も見てないよ」

こっそり周りを見回してもみんな自分たちの世界だ。
一応むっとした表情を見せたもののその手を振り払うことなく少し離れた背中を追い掛けた。

*

一方その頃オミとカゲミツは交通整理にあたっていた。
花火大会会場付近の橋で立ち止まろうとする人達を会場に向かうようにと促していた。
絶好のスポットだから止まろうとする人も多いがここで止まられると渋滞が起きてしまう。
ただでさえ暑いところに人の熱気でさらに暑く感じる。
涼しい顔で誘導しているオミに悪態をつく。

「もしここで何か起きても俺じゃ対処出来ねぇよ」
「そんなこと言っても仕方ないだろ」
「お前なんでそんな涼しそうなんだよ」
「涼しい訳ないよ」

いいからさっさとやると急かされてカゲミツも拡声器で人の波にゆっくり進めと呼び掛けた。

*

「これでよかったのかな?」

高層マンションから流れる人の波を眺めていたヒカルがぽつりと呟いて後ろを振り返った。
クーラーの効いた涼しい部屋で人と暑さと戦っているであろう相棒の姿を思い浮かべた末の言葉だった。

「こうでもしないと今日もワゴンに篭って仕事三昧だっただろ」
「でもアイツ全然体力ねぇぞ」

倒れたらどうすんだと言葉にオミがいるから大丈夫だとキヨタカが言い切る。
確かにいつも素っ気ない態度を取っているがオミは常にカゲミツを気にかけている。
とはいうものの。
難しい顔をしたまま手すりに置いた腕に顔を乗せているとふとキヨタカの体温に包まれた。

「俺といるのに他の男の話をするな」
「男って、カゲミツだろ」

暑いと前に回された腕を払おうとしたらぐるりと身体を回されてキスをされていた。

「今は俺のことだけ考えていろ」

懐の広い振りをしながら意外と嫉妬深い恋人にヒカルが苦笑する。
キヨタカの言う通り、カゲミツにはオミという恋人がいるのだ。
いくら自分の相棒だといってもこれは心配し過ぎかもしれない。
花火までまだ時間があるからと引かれた腕に逆らうことなくヒカルは部屋に入った。

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