気付いたら目で追っていて、何気ないことでも話し掛けられたら嬉しくなって。 しまいには本人がいないところで今は何やっているのかと気になる始末。 しばらく気の迷いだと見て見ぬ振りを決め込んでいた。 しかしある夜、この感情に名前をつけるとそれはすとんと自分の中に落ちてきた。 俺は、カゲミツのことが好きなんだ。 自覚したところで行動に出そうとは思わない。 カゲミツはタマキに恋をしているが、いわゆる好きになった奴がたまたま男だったというやつだ。 この感情をぶつけたところで否定はしないが受け入れてくれることもないだろう。 それにオミ自身も決して同性愛者という訳ではない。 過去を遡っても恋愛対象は異性だった。 オミからしてもなぜか同性のカゲミツに惚れてしまった、という訳だ。 そしてそこから導き出される結論はただひとつだ。 この気持ちをカゲミツに伝えることなく忘れてしまおう。 恋を自覚した夜にそこまで思い至ったオミは、ちくりと胸に痛みを感じながら眠りについた。 * 「はよ」 「おはよう」 「てめぇは何朝っぱらからむすっとしてんだよ」 低血圧丸出しで挨拶した自分を棚に上げてカゲミツは片手でオミの両頬をぎゅっと掴む。 忘れようと思った恋心がそんな些細なことでぼっと燃え上がってしまう。 この恋心をなかったことにしてしまおう。 頭ではわかっているのに、心が勝手に膨らんでいってしまう。 視界に入るだけで気分が上がり、隣に座るだけで血沸き肉躍るようだ。 得意なポーカーフェイスのおかげでそれが表情に出ることはないけれど。 忘れようともがけばもがくほどカゲミツに向ける感情が大きくなる気さえしていた。 * そんなある日のことだった。 部隊は解散したミーティングルームでオミは少し残った作業をしていた。 カゲミツも同じだったようで諜報班の定位置ともいえるソファーで二人並んでパソコンに向かっていた。 二人きりというこの状況に、柄にもなくどきどきとしてしまう。 まるで恋愛を覚えたばかりの中学生のような気分だ。 しばらくお互い無言で作業をしていたけれど、突然カゲミツがふわぁと大きく両腕を突き上げた。 「ちょっと休憩」 「勝手にすれば」 「おう」 個人作業なのだからカゲミツがどう休憩しようと構わない。 緩んだ表情が可愛い、なんて考えを頭の隅に追いやって作業に集中しようとする。 そのとき。 「っうわ」 何してるんだといつもより近い距離にあるカゲミツの顔を見つめる。 「休憩って言っただろ」 「勝手に人の肩を使わないでくれる?」 「じゃあ肩借りるぜ」 完全に事後承諾だ。 いや、そもそも承諾なんてしていないけれど。 「休憩なら一人で取りなよ」 「いいじゃん、あんま根を詰めすぎるとよくないぜ」 オミの肩に頭を預けたままカゲミツが眠たそうに欠伸を吐き出す。 起こさなきゃならないのに、それが少しもったいなく思ってしまい。 しばらく逡巡して黙っていたのを了承と受け取ったのか、カゲミツはすやすやと寝息を立てはじめた。 気持ち良さそうに眠るカゲミツの寝顔を見てしまうと、無理矢理起こすのも憚られてしまう。 カゲミツから来たんだと誰に言うでもなく言い訳をして、オミはソファーの背もたれに体重を預けた。 カゲミツのさらさらとした金髪が首にかかり、心がざわついてしまう。 肩を貸しているのだから少しくらいとまた誰にでもなく言い訳をして、空いた手でカゲミツの髪に触れた。 触れてしまえば心に秘めていた感情がもくもくと大きくなってきてしまう。 どうせカゲミツは寝ているのだからいいだろう。 これは伝えたことにはならないと自分を納得させてオミは口を開いた。 「カゲミツ、好きだよ」 言ったら満足するだろう。 この秘めた恋心を忘れることも出来るかもしれない。 そんな淡い期待を込めた告白を口に出してから後悔することになった。 口に出してしまえば答えが欲しくなり、忘れるどこらか更に強くその気持ちを自覚してしまったのだ。 呆れるくらいに一致しない頭と心に苦笑いをこぼす。 「お前を好きでいることに決めたよ」 お前には言わないけどね。 小さく笑って、最初の決意を改めたのだった。 勝手に大きくなるのを止められないらしい by確かに恋だった様(恋ってやつは5題) back |