「カゲミツ、前にこれ欲しいって言ってたよね?」

仕事の後に二人で飲みに来た小綺麗な居酒屋の一室で。
カバンの中に潜ませていたそれを手渡すと、カゲミツが明らかに表情を曇らせた。

「これはどういうつもりだ?」

カゲミツの手の中にあるのは最近発売になったばかりのゲームだ。

「俺からのプレゼント」
「俺は誕生日でも何でもないぞ」
「俺がプレゼントしたかったから」
「意味わかんねぇ」

怪訝な顔をしたままのカゲミツが手の中のものを見つめる。
プレゼントしたかったというのは本当だ。
好きな人の喜ぶ顔が見たいというのは恋してるやつなら誰でも思うことだろ?
残念ながらカゲミツは喜んだ顔はしていないけれど。

「お前、この前もゲームくれたじゃねぇか」

カゲミツにこうしてプレゼントを渡すのは何も今に始まったことではない。
カゲミツに恋するようになって、何とか気を引こうと思って繰り返しているのだがなかなか上手くいかない。
次は何にしようかなと考えていると、カゲミツが手の中のものを突き返してきた。

「これは受け取れない」
「どうして?」
「最近お前になんかもらってばっかだろ」

しかも飯に行けば毎回知らないうちにお会計が済まされている。
なぜここまでされるかカゲミツはわからないのだ。

「俺がしたいと思ってるからしてるだけだよ」
「そういうのはそこら辺の可愛い女の子にやってやれ」

そこら辺の可愛い女の子に興味はないのだけど。
そんなこと露とも知らないカゲミツはぶつぶつと何かを言っている。

「カゲミツにはいつもお世話になってるからね」
「ヒカルには渡してねーだろ」

それらしい理由を言ったらバッサリと切り捨てられた。
何と返そうかと思っているとカゲミツはサイフを持って立ち上がった。

「とりあえずこれからプレゼントはよせ、自分で稼いだ金なんだから自分の為に使え」

そう言い残してカゲミツは個室から出て行ってしまった。
一人残されたオミがはぁと大きく息を吐き出す。

「カゲミツにプレゼントを渡すのが自分の為だって言っても、わかってくれないんだろうな」

プレゼント作戦は失敗、か。
ひとりごちてオミはグラスに残ったウィスキーを一気に飲み干したのだった。

お金では買えないらしい

by確かに恋だった様(恋ってやつは5題)
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