「ヒカル、」
「今日も収穫ゼロだ」

言い終わるよりも早く出た回答にカゲミツが肩を落とした。

カゲミツが長い眠りから目を覚まして半年。
二人が姿を消してからはもう一年が経とうとしていた。
通常業務の間にちまちまと二人の居場所を捜しているが、居場所はおろか痕跡すら発見出来ない。
数ある部隊の中でも間違いなく上位に入る腕を持つヒカルをもってしても二人の行方はわからないままだ。

「二人とももう死んじまってたりして」
「冗談でもそんなこと言うな」

目を覚ましてしばらくしたある日、神妙な顔つきのキヨタカとヒカルが病室にやってきた。
そして聞かされた事の顛末を最初は理解することが出来なかった。
誰よりも正義感に溢れていたタマキが裏切り者のカナエと逃げただなんて。
頭の中が真っ白になるという表現をよく聞くけれど、まさにそんな感じだった。
タマキ、カナエ、逃げた、それぞれの言葉はしっかりと理解出来るのにそれらをうまく繋げることが出来ない。
・・・理解したくなかったのかもしれない。
だけど時が経ち、部隊に戻ると嫌でも現実を突き付けられた。
二人のデスクも給湯室にあったカップも本棚に紛れていた聖書もその持ち主も。
記憶の中にあった二人がごっそりと抜け落ちているようだった。
後から聞けば思い出さないようにと配慮してくれたようだけど、それがかえって二人で消えたという事実を認識させられた。
そして部隊に復帰して間もないある日、ヒカルに呼び掛けたのだ。

「タマキ達を捜さないか?」
「捜してどうするんだよ」
「俺の中のタマキはまだJ部隊にいるんだ、忘れろって言われても無理なんだよ」

タマキが幸せならそれでいい。
しかしそんな綺麗事だけで全てを飲み込んでしまえる程大人じゃないんだ。
そこまで言い終えるとヒカルはしばらく考え込んだ末に小さく頷いた。
かくして二人を捜索する日々が始まったのだ。

だけどいくら捜しても情報を見付けることが出来ない。
最初は居場所を捜していたが発見出来ずに過去に滞在した場所も捜すようになった。
だがそれすらも情報を拾うことが出来なかった。
ヒカルが言った死んじまってるかもという言葉が脳裏を過ぎる。
大丈夫だと信じたいがそれを信じられる情報がカケラもないのだ。
またタマキに会いたい。
あの笑顔をもう一度見たい。
そう夢見ることすら許されないのだろうか。
やる瀬ない気持ちをどうすることも出来ずにカゲミツはひとり溜め息を吐き出した。

夢さえ見させてくれない

すみの江の岸による波よるさへや
夢のかよひ路人めよくらむ

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