※DC2で凹んでるカナエを励ましたのがカゲミツだったら、というお話です



自分が戻ってこなければ、ヒカルはこんな目に遭うこともなかったのに。
また自分勝手な行動で仲間を傷付けてしまった。
この温かく穏やかな場所は、やはり自分には不釣り合いなんだろうか。
人気のないベンチに腰掛けそんなことを考えていると、ふいに名前を呼ばれた。

「カナエ!」
「カゲミツ君・・・」

焦った表情がホッとしたものに変わる。
けれどそれも一瞬でムッとしながらズカズカと近付いてきた。

「おまえがいなくなったってみんな捜してたんだぞ」
「ごめん」
「さすがにまだおまえを一人にする訳にはいかないんだよ」

帰るぞと差し出された手を掴んで、息を吐いた。

「・・・・・・俺はこのままここにいていいのかな?」

声に出した瞬間、今まで抑えていた涙がぽろりと落ちた。
きっとこの質問に一番答えたくないのはカゲミツだ。
それでも聞かずにはいられなかった。
掴んだ手に力を込めると頬に強い衝撃が走った。

「おまえがここにいたいって思ったんだろ!」

頬を殴った拳をワナワナと震わせながらカゲミツが怒鳴った。
顔は燃えたように真っ赤で、心の底から怒っているのだと伝わってくる。

「おまえがいたいって言うからみんな受け入れたんだよ」
「だけどまたこんなことになるかもしれないんだよ」

血の気のないヒカル、憔悴しきった顔を隠しきれないキヨタカ、心配そうにただ見つめるしか出来ない仲間達。
それらはカナエの決心を揺るがせるには十分な光景だった。
思い出して息を詰めると今度は肩を叩かれた。

「おまえだけが責任を感じてる訳じゃねぇんだよ」

夜遅い時間に一人で送り出してしまったカゲミツ、自分が誘い迎えに行けばよかったと思うキヨタカ。
二人だってなぜあのときという後悔に苛まれている。

「だからヒカルがこうなっちまったのはおまえのせいじゃねぇ」
「カゲミツ君・・・」
「それにヒカルは絶対に大丈夫だ」

それは長年一緒にいた絆みたいなものだろうか。
迷いなく言い切ったカゲミツに心がすっと軽くなる。

「そんな生半可な気持ちで戻って来ようってんなら承知しねぇからな」

その一言がぐさりと胸に刺さった。
俯いて小さく頷くとカゲミツが捕まれたままの手を引いた。
つられてベンチに座っていたカナエが前のめりになる。

「手、離せよ」
「病室に着くまで、いや病棟に着くまででいいからこのままじゃダメかな?」

触れ合ったところから感じるカゲミツの温かさが心を落ち着かせてくれる。
掴んだ手にやんわりと力を込め直すと勝手にしろという声が降ってきた。
後ろに引っ張られる手を気にすることなくカゲミツは来た道を歩き出す。
不機嫌そうな横顔を眺めながら、カナエは先程のカゲミツの行動を思い返していた。
あの怒りはカナエを案じてくれたこそのものだ。
相手は自分を半年間も昏睡状態に陥れた奴なのに。
タマキとは違った意味でカゲミツはどこまでも純粋で優しい。
傷付いてもなお、こうして手を差し延べてくれたのだから。
今度は命を投げてでもそれに報いなければならない。
あちらに一人残してきたレイは気掛かりだ。
だけどこの差し延べられた手を離したりはしない。
誰もいないベンチを振り返って、カナエは過去の自分との決別を決めた。

紅に美しく染め上げた

ちはやぶる神代もきかず竜田川
からくれなゐに水くくるとは

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