※カナエ×カゲミツなので苦手な方は注意!




「カナエ、話があるんだ」

イチジョウの家に行っていたカゲミツ君が帰ってくるなりそう言った。
俯かせた顔はいつものように不機嫌さからくるものではない。
悪い予感を胸に感じながらカゲミツ君をソファーに座らせた。
ワナワナと震える手に自分の手を重ね、落ち着かせる為に飲みかけだった自分のカップを手渡した。
受け取ったカップの中身を飲み干し、一息つくとカゲミツ君は少し落ち着きを取り戻したようだ。
まだ重ねた手は少し震えているけれど。

「どうしたの?」
「イチジョウ家を、継ぐことになった」

なるだけ優しく聞いた問い掛けに、淡々した声が返ってきた。
まるで感情を殺しているように。
だけど次の瞬間にカゲミツ君の綺麗な顔がくしゃりと歪んだ。
ポロリと流した涙が手の甲に落ちた。

「だから部隊は抜けなきゃなんねぇ、お前とも一緒にいられねぇ」

悲しみもあるだろうけれど、カゲミツ君の表情からは悔しさも見て取れた。
重ねた手にギュッと力を込める。
恐らく背後には複雑な事情があるのだろう。
公爵家のただ一人の跡取りなのだから。
だけどそれだけ言ってカゲミツ君は口をつぐんでしまった。
代わりに小さな嗚咽が聞こえてくる。
きっとカゲミツ君はいろいろなことを背負ってこの決断を下したのだろう。
口を開かないということは、聞いて欲しくないということだろう。
珍しく自分から寄せてきた肩にそっと腕を回した。

いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていた。
だから覚悟は出来ているんだ。

「カゲミツ君」

声を殺して泣いているカゲミツ君の名前を呼んで顔を上げさせた。
涙に濡れた琥珀色の瞳がとても綺麗だ。

「カゲミツ君がイチジョウ家に戻っても俺は変わらないよ」
「でも」
「新月の夜は窓を開けておいてくれないかな?」

肩に回した手を引き寄せるとストンと胸に収まった。
くぐもったカゲミツ君の声が聞こえる。

「毎日、開けといてやるよ」

言い回しはいつも通りつれないけれど、横にある耳は真っ赤に染まっている。
カゲミツ君の腕が遠慮がちに背中に回ってきた。

「カゲミツ君がそんなこと言ってくれるなんて、嬉しいな」

クスクスと笑うと肩をドンと叩かれた。

「俺だって変わらねぇ」

ありふれた愛の言葉よりもカゲミツ君の言葉は深く胸に刺さる。
力いっぱい抱きしめるといつもの調子で苦しいと返ってきた。

「毎日開けてくれるなんて言われたら毎日行かないとね」
「来なくていい!新月のときだけでいい」
「ウソ、本当はそれだと寂しいくせに」

いつもならば即座に否定されそうな言葉を囁くと、カゲミツ君は顔を俯かせた。

「・・・やっぱもうちょっと頻繁に来てもいい」

なんてことを言うのだろうか、カゲミツ君は。
少し恥じらった上目遣いに今までしっかり持っていた理性をあっさりと手放してしまう。

「こうしていれる時間はもう少ないからね」

そう言って抱きしめたカゲミツ君をソファーに押し倒す。
ワッと驚いた声は上げたものの拒絶の声は上がらない。
それどころか誘うように瞼を閉じたカゲミツ君にゆっくりと唇を近付けた。
逢引の方法

名にしおはば逢坂山のさねかずら
人に知られで来るよしもがな

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