ブルルと鈍く振動した携帯を手に取ると、知らない電話番号がディスプレイに表示されていた。
怪訝に思いながらもピッと通話ボタンを押す。

「もしもし」
「・・・・・・・」
「誰だ」
「・・・どうして出るんだい」

カゲミツの問いに答えることなく、電話の向こうの男は弱々しく呟いた。
小さな声だったけれど、その声の主はすぐに想像がついた。

「オミだな」
「ナイツオブラウンドのスパロウだよ」

フッと息を吐き出した答えは自嘲気味なものを含んでいる気がする。
なぜ敵対するオミが自分の番号を知っているのか、そもそもなぜ自分に電話なんかしてきたのか。
気になること山ほどあったはずだ。
なのに口をついて出てきたのはどうしたの一言だけだった。
まるで友人の悩みを聞くかのように。

「なんだかカゲミツの声が聞きたくなったんだ」

ぽつりと吐き出した声はいつも対峙するときのものとは違う。
母親とはぐれてしまい、助けてくれと叫ぶ子供のようだ。

「俺はお前の敵だぞ」
「昔はそうじゃなかった」

ぽつり。
こぼれ落ちるかのような言葉に唐突に理解する。
幸せだった日々を思い出しているのだと。

「オミ・・・」
「今そうやって呼んでくれるのはカゲミツ一人だけだよ」

諦めたようにフフッとオミは笑った。
幸せだった日々を思い出し焦がれても、それはもう叶わないことなのだ。
心臓をぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなる。

「時々思うんだ、こんなことして、後に残るのは何なんだろうって」

今のオミは自分の幸せを壊したへの復讐を繰り返している。
それだけの為に生きていると言っても過言ではないだろう。
ただ憎しみや悲しみだけを糧に生きている。
そんなオミが復讐をすべて終えたときに手にするのは何だろう?
一時的に達成感はあるかもしれない。
ただそれもすぐに消えてしまうだろう。
・・・居た堪れない。

「今すぐそこに行ってやるよ」
「え?」
「だから今すぐそこに行ってやるって言ってるんだ」

気付けばそんなことを口走っていた。
後のことなんて考えつかない。
だけどどうしても今、オミの隣にいたくなったのだ。

「俺がどこにいるかなんて、わからないくせに」
「どうにか見付けてやるよ」

驚きを滲ませながらも皮肉っぽく笑ったオミをピシャリと言って黙らせる。
目の前のパソコンのディスプレイをちらりと確認して、黙って電話を切った。

今すぐそこに行ってやるよ

逆探知出来るようにしてたなんて、本当は見付けて欲しかったんだろ?

立ちわかれいなばの山の峰に生ふる
まつとし聞かばいま帰り来む

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