「カゲミツ、プリン食べたくない?」

あと五分で日付が変わるというこの時間に。
お風呂に入った後でタオルを首に掛けたままのタマキがこくんと小首を傾げてそう聞いてきたのだ。

「俺は別に」
「そうか、俺は食べたいんだけどなー」

そう言われても今冷蔵庫にプリンのストックはない。

「明日買ってくるから今日は我慢な?」
「やだ、今食べたい」

駄々をこねる姿はいつものしっかりとしたのと違ってかなり可愛い。
他の人はこんなタマキを知らないんだと思うと少しの優越感。
だけど。

「もうお風呂も入っただろ?」
「俺がお風呂入ってなかったら自分で買いに行くんだけど・・・」
しゅんとした顔を見せられてしまえばカゲミツは敵わない。
一瞬逡巡してからあーっと声を上げた。

「今から買いに行ってくるから!暖かくして待ってるんだぞ」

部屋着に厚手のアウターを着て財布を手に取った。
タマキは本当に?なんて目を輝かせていてまんまと掌の上で転がされているなと思う。
だけどキラキラと目を輝かせるタマキが可愛くて仕方ないのだ。
その顔を見れるならば自分の出来ることはなんだってしたくなる。

「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃーい」

笑顔で見送るタマキに軽く手を振って、カゲミツは寒い冬の夜道を歩き始めた。

*

「あーおいしかった!」

プリンを食べ終わったタマキがへにゃりとした顔で笑った。
見ているこっちが幸せになる、そんな笑顔だ。
容器をゴミ箱に捨てたタマキに外気に晒されて冷たくなった手を差し出す。

「なぁタマキ」
「ん?」
「冷えた指先、暖めてくれないか」

言ってから恥ずかしくなる。
差し出した手を引っ込めようとすると、タマキがそれを掴んだ。
恥ずかしくて逸らしていた目をタマキの方に向ける。

「指先だけでいいのか?」

クスッと笑った顔がまるで挑発しているようだ。
よくないと言うと同時に力いっぱい抱き締めて、弧を描いたままの唇に噛み付いた。

冷えた指先、暖めてくれないか

君がため春の野にいでて若菜つむ
わが衣手に雪は降りつつ

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