「お願いだから、帰ってくれ」 休日、ひとりワゴン車で寛いでいると突然の訪問者。 ヒカルは昨日帰らないと言って出て行ったのでキヨタカの家にいるのだろう。 なのに、なぜか今、目の前にはキヨタカが笑顔で立っている。 「ヒカルならお前の家だろ?」 「疲れて眠ってしまってな」 暇してるんだとワゴン車に乗り込もうとするのを制する。 だからって、なんで俺のところにくるんだ。帰ってヒカルと一緒に寝てろよ。 そう悪態をつくも、キヨタカは全く気にしていない。 俺とお前の仲じゃないかと制止の手を払う。俺とお前の関係だからこそ、帰って欲しいんだけど。 「つれないな」 頑なに車内に入れまいとしている俺にぐいっと顔を近付ける。 「相変わらず、キャンキャンとうるさいな」 聞き覚えのある嫌な台詞に悪寒が走る。あの感触を思い出して一人身震いする。 思わず顔を背けるとキヨタカはその隙にワゴンの車内に入ってきてしまっていた。 アイツのいいようされてしまった自分に腹が立つ。しかし一度入ってきてしまったキヨタカをそう簡単に追い出せるとも思えなかった。 「まぁそう怒るな」 手土産を持ってきたとコンビニの袋からビールを取り出す。一緒に飲もうじゃないかと差し出されたビールをひったくって一気に飲み干す。こうなれば自棄だ。 いい飲みっぷりだとキヨタカに笑われた。一人のゆったりした休日がお前のせいでぶち壊しだ。これが飲まずにやってられるか。 しばらくは二人で黙って飲んでいたが突然キヨタカが口を開いた。 「最近タマキとは進展があったか?」 思わずビールを口にする手を止めてキヨタカを見る。 その様子を見て進展なしかとキヨタカはため息をついた。 お前には関係ないだろ!と反論すると、そんなにのんびりしていると、他のやつに掻っ攫われても知らないぞと脅してくる。 そんなことは自分だって分かっている。 無邪気そうに見えて実は策士なアラタ。穏やかそうに笑っているカナエだってその実どうだか分からない。穏やかに隠された本心が見えないのだ。 でもだからと言ってこの状況を打開する方法が分からないのも事実だ。 黙って考え込んでしまった俺にキヨタカが声を掛けてきた 「タマキはお前のことを嫌いではないだろう」 あとはお前の頑張り次第だと肩に手を置かれたので顔を上げる。 こんな奴の言うことに、少しでも心が救われたのは酒のせいにしておこう。 まじまじとキヨタカの顔を見ていると、奴はにっこり笑って恐ろしいことを言ってのけた。 「"そのとき"のために、俺が教えてやろう」 言うと同時に手に持っていた缶ビールを奪われる。驚いてそちらに目をやった隙に覆いかぶさられる。 「冗談も大概にしろよ」 足の間に膝を入れられ身動きが取れない。冗談にしては、度が過ぎている。 右手で顎を持ち上げられ、至近距離で見つめられる。 俺がせっかく教えてやると言ってるのにと言う声は低くて甘い。 ヒカルはきっと、この声に騙されるのだろうなど場違いな感想を抱く。 そうこうしているうちにキヨタカの顔が近付いてきて、視界がぼやける。反射的に顔を背けて唇を逃れる。 俺はそんなの頼んでないと精一杯の虚勢を張るがキヨタカにはそんなもの通じない。 キヨタカの真意は何なのか、かろうじて押し返しているキヨタカの顔を見る。 「何を考えているんだ・・・」 責めるように強く声を出したつもりが実際には搾り出すような声になってしまった。 にやりと笑うキヨタカの顔が、憎くて仕方がない。 「お前のその顔が見たかったんだ」 俺に迫られて、そんな顔を見せるのはお前ぐらいしか思い浮かばない。その嫌がる顔が見たかったと言われて頭に血がのぼる。 そんなキヨタカの性癖に興味はないし、それだけの理由でこんなことをされているのかと思うと悔しくなった。 やめろと手をあげるも簡単に捕らえられてしまう。心底楽しそうなその表情に腹が立つ。 お前は分かっていないなと脇腹を撫で上げられてぶるりと震える。思わず変な声が出そうになって慌てて飲み込む。 怒りと恥ずかしさで赤くなった頬に触れられ感じたかと笑われる。断じてそんなことはないので首を横に振る。 「俺のことを好きなくせに強情だな」 「ないから!100%ないからヒカルのところに帰れ」 そう言う合間にもキヨタカの手はいつの間にかツナギの中のTシャツの下にまで辿り着いていた。 さすがにこれはまずい。この状況を打破しなくてならない。 「本気で通報するぞ!」 服の下にもぐりこんだキヨタカの手を捕まえて怒鳴りつける。余裕の表情のキヨタカは俺も警察なんだがなと笑う。 「ヒカルに言いつけるぞ!」 「ヒカルには言ってあるから心配はいらない」 思わぬ返事に抵抗も忘れ一瞬ぽかんとしてしまう。止めろよ、ヒカルと嘆くその間にキヨタカは胸を撫でまわし、突起を見つけてぎゅっと摘まれた。 突然の刺激に息を詰める。やめろと抵抗の言葉はあまりに弱々しくてキヨタカには届かない。 甘い言葉と巧みな愛撫に流されて、変態は嫌いなんだよという呟きは誰にも聞かれることなく空気に溶けた。 by確かに恋だった様(変態を全力で拒絶しました5題) back |