ベッドに横たわり人形のように眠り続けるカゲミツの顔を覗き込む。
黙っていれば絵本に出てくる王子様のようだ。
以前部隊の誰かがそう例えたのも納得が出来る。
元々白い肌は血の気を失い青白いほどにまでなっている。
頭に巻かれた包帯、繋がれたチューブの数々を見ていると心が痛くなってしまう。
それでも輝きを失わない金髪に指を通すと柔らかく、触れたところに人肌の温もりを感じる。
生きているのだと実感する。

カゲミツがカナエに撃たれてもう一週間が経った。
一命を取り留めたもののカゲミツはあの日から一度も目を覚ましていない。
胸を撃たれたカナエも一命を取り留め、今は意識を取り戻した。
まだ痛々しい姿をしているが、会話が出来るほどに回復をしてきている。
そして明かされたカナエの境遇は驚愕、なんて言葉で片付けられるようなものではなかった。
どれだけ辛かったのか、どれだけ苦しかったのか。
想像するだけで胸が張り裂けてしまいそうだ。
カナエの今までの人生を振り返りながら、タマキはゆっくりとカゲミツの髪を撫で続ける。

「カゲミツには仲間も家族もいるもんな」

カゲミツが撃たれたと聞いて眠らずに手術室の前で祈っていたJ部隊の仲間達。
仲が悪いと言っていた父親も落ち着かない雰囲気でそこにいたのを覚えている。

「カナエには、いないんだよ」

髪を撫でる手を止めて、ギュッと拳を握り締めた。

「だからカゲミツ、ごめんな」

カゲミツの視線に友情以上のものが含まれていることには何となく気付いていた。
けれどその気持ちに答えることは出来ない。
伝わらないこの状態で言うのはずるいとわかっている。

「幸せになるんだぞ」

そっと上半身を折って白い頬に口付けた。
そしてゆっくりと立ち上がった。

「俺はそろそろ行かなくちゃ」

カゲミツの顔を見るのもこれが最後だろう。
王子様のように眠るその顔をしっかりと瞼に焼き付ける。

「じゃあな」

軽い口調で別れの言葉を吐き出して、タマキは振り返ることなく病室を出て行った。

行き先を伝える事はできないけれど

わたの原八十島かけて漕ぎいでぬと
人には告げよ海人のつり舟

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