昼休み、一緒に食べようと下心見え見えで言ってくるクラスメイトの脇をすり抜けて、カゲミツはとある場所を目指す。
途中食堂で適当に食糧を調達し、ただただ足を早める。
人の目を気にすることなく階段を上がり、行き着いた先のドアをバンと開いた。
無機質なコンクリートと、清々しいほど晴れ渡った空を見て今日は自分が先だったかと心の中で呟く。
自分が先だった、なんてまるでアイツが来ることが当然のように思っているんだな。
数ヶ月前の自分からは想像つかないようなことを考えて、硬いコンクリートの上に腰を下ろした。



「今日はカゲミツの方が先だったんだね」

カゲミツが屋上に到着してから数分後。
静かに開かれたドアの向こうでココアブラウンの髪が揺れた。
ごろりと寝転がっているカゲミツの横に近付いて、汚れるよと腕を引っ張って起こす。

「まだ食べてなかったんだ?」

傍らに置かれたビニール袋をオミが目敏く見付けて聞いてくる。

「太陽の光を浴びたら眠たくなっただけだ」

ぶっきらぼうに言い放つと、オミはそうと綺麗に微笑んだ。
オミを待っていた、なんて言わなくても伝わっているのだろう。
壁にもたれて、二人並んで昼ご飯を食べる。

カゲミツは入学直後からここで昼ご飯を食べていた。
自分の周りにあるモノ、それを目当てに媚びを売るように集まってくる奴らとは到底一緒にいられなかったからだ。
だけど今目の前にいるオミは違う。
自分と同じ境遇で、嫌になることもあるはずなのに笑って奴らに接している。
オミの周りにいつも人がいるのは、半分くらいその人柄が理由だろう。
そんなオミが数ヶ月前、突然一人で屋上にやって来たのだ。

「いいところだね」

人懐っこい笑顔で近付いてきて、どさりと腰を下ろす。
一応社交界を知っているカゲミツは目の前の人物に見覚えがあった。

「俺は前から君に興味があったんだ」

イチジョウカゲミツ君。
そう言ったところを見ると、オミも知っていたのだろう。
無視を決め込むカゲミツに構わずオミは話を続ける。

「こんないいところを独り占めなんて、ずるいよ」

そう言って持ってきていたビニール袋からサンドイッチを取り出して食べた。

「ここで食べると、おいしく感じるね」

結局、その日カゲミツはオミを一瞥したが会話することなく昼休みを終えた。

それから毎日、オミは一人で屋上に来るようになった。
最初は自分一人の空間を邪魔されたことに苛立ち、次にぺらぺらとよく喋るオミに苛立った。
そもそもオミは人付き合いを上手くやっているのだから、こんなところに来る必要はない。
そして初めてオミが屋上にやって来てから二週間と二日が経ったあの日。
カゲミツは初めて口を開いたのだ。

「お前、こんなところに来る必要ないだろ」
「どうして?」

ぽかんとした後、それより初めて話してくれたねと笑う。

「俺は一人でいたいんだ」

お前はそんなことないだろうと、遠回しに伝える。

「カゲミツは勘違いしてる」
「何が?」
「俺だって平気な訳じゃない」

何がとは言わなかったけれど、何がとは言わなくても理解は出来た。
コイツもそんなこと思うんだとまじまじと顔を眺めてしまう。

「だから昼休みくらいはゆっくりしたいんだ」

そのわりにいつも勝手に一人でぺらぺらと喋っている。
そんな疑問が顔に出たのか、オミはふわりと笑った。

「カゲミツといると落ち着くんだよ」

そう言ってふわぁとあくびをしてごろりと床に寝転がった。
確かにいつも廊下で見掛けるときよりもリラックスしているようにも見える。

「カゲミツもやりなよ、気持ちいいよ」

腕を引かれるがままに、床に背を預けた。

その日を境に、二人の距離は少しずつではあるが縮んでいった。
全くなかった会話もするようになり、最近では笑い合うことも増えてきた。
いつの間にか鬱陶しいと思っていた存在が、なくてはならない存在になっていたのだ。

だから、明日も明後日もその先も。
俺はここでお前を待つだろう。


出会いを繰り返すこの場所で

これやこの行くも帰るも別れては
知るも知らぬもあふ坂の関

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