「タマキちゃん、僕今日はカレーがいいな」
「アラタは本当カレーが好きだな」
「だって、タマキちゃんの作るカレーは美味しいんだもん」

そんな微笑ましい会話をする二人を、周りの人達が僅かに驚いてちらりと振り返る。
会話だけ聞けば仲の良い兄弟のようだ。
実際は、同じような年齢の男二人の会話なのだけれど。

タマキがアラタと出会ったのは、まだ自分よりも身長が低く声も大人になりきれていない、そんな時だった。
愛らしからつい甘やかしてしまい、よく仲の良い兄弟だと言われていた。
それは一年ほど前の話だけど。
この一年でアラタは驚くほど急成長を遂げたのだ。
身長が一気に伸び、声も男らしく低くなった。
童顔のタマキと並ぶと年の差があるようには見えないくらいだ。
しかし見た目が変わったからといって性格は変わらないし、大人になったといってもまだ小さかった頃の愛らしさも残っている。
だからつい、以前と同じようにアラタを扱ってしまうのだ。

「あ、タマキちゃん!僕このお菓子食べたい!」

スーパーでさりげなく腕をひかれてお菓子コーナーに誘導される。
タマキからすればいつものこと、だけど周りからすると少し目を見張る光景なのだ。
カゴにお菓子を入れたアラタに仕方ないな、なんて笑っているタマキはそんな周りの目線に気付いていない。

「タマキちゃん、ありがとう!」

腕を絡められたままタマキは歩き出す。
結局、呆気に取られた他の買い物客の視線に気付くことはなかった。

*

「タマキ、アラタはまだ子供だと思ってんだろ?」

ある日、自分のデスクで仕事をしているとヒカルに声を掛けられた。
当たり前だと言わんばかりに振り向くと、はぁと溜め息を吐き出すのが目に入った。

「どうしてそんなこと言うんだ?」
「仲が良いのは構わないけど、そろそろ周りを気にしろ」

そこまで言ってもタマキは不思議そうな顔をしている。

「アラタはもう大きくなってる。街中で今までみたいにしてるとすげー注目を浴びんぞ」

言われて漸くヒカルの言いたいことが飲み込めた。
だけど理解は出来ていない。
わからないと言葉には出さずとも顔に出ているタマキに、ヒカルが二度目の溜め息を吐き出したときにアラタが現れた。

「俺達、街中で注目されてないよな?」
「え?」
「ほら」

どうだとばかりにヒカルを見たタマキに、アラタが言葉を挟む。

「タマキちゃん、気付いてなかったの?」
「え?」

今度はタマキが驚いた声を上げた。
言わんこっちゃないとヒカルがその場を立ち去る。

「皆に噂されてるらしいよ」
「え!?」
「僕は別に関係ないけどね」

だって、タマキちゃんのこと好きだもん。
以前のままの可愛いらしい笑顔のくせに、男らしい声のアラタが囁く。

「僕達が付き合ってるのは事実だし、急に変わったら余計に噂されちゃうよ」

確かにアラタの言う通りかもしれない。
頭を抱えるタマキの腕を、アラタがぐいっと引っ張る。

「だから今までのままで良いんだよ」

今日はシチューにしようねとアラタはニッコリと微笑む。
そんなアラタに頷きながらも、これからは少し気をつけなければと思うタマキだった。

皆に噂されてるらしいよ、関係ないけどね

わが庵は都の辰巳鹿ぞすむ
世をうぢ山と人はいふな

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