バンプアップからの帰り道。 何気なく見上げた空には、丸い月が輝いていた。 「お月様が綺麗な夜は好きなんだ」 彼がそう言ったのは二人で日本を逃げてたどり着いたとある国での話だ。 その日はちょうど綺麗な満月が空に浮かんでいた。 二人でひとつの毛布に包まり、夜空を眺めているときにカナエはそう言ったのだ。 どうしてと理由を問うと、柔らかく微笑んだ。 「満月の日はいつもより夜が明るく見えるから」 何ともない風だったけれど、カナエの心の奥に抱える闇がちらりと見えた気がした。 その闇の出口を照らす光になりたいとは言わない。 けれど寄り添って、一歩先を照らすくらいは自分にも出来るんじゃないだろうか。 ぎゅうっと胸が締め付けられて、黙ってカナエの腕にしがみついた。 一瞬ぽかんと不思議そうな顔したカナエだったが、すぐにしがみついた身体を抱きしめてくれる。 自分は人形だったと話したカナエの体温は、人間らしい心地好い温かさだった。 それからしばらくいろいろな国を転々としながらも二人の幸せな暮らしは続いた。 この幸せがずっと続くんじゃないだろうか。 いや、ずっと続けたい。 そう思っていた矢先、二人は離れ離れになってしまったのだ。 カナエはナイツオブラウンドに戻り、タマキは記憶をなくしJ部隊に戻ることになってしまった。 記憶を取り戻したきっかけがナイツオブラウンドとの戦闘だったなんて皮肉なものだ。 幸せだった日々を思い返して、タマキは小さく息を吐き出した。 そのとき、ふと大好きな香りが鼻を掠めた気がして辺りを見回す。 振り返ってみても、そこには丸い月が輝いているだけだ。 あの日あんなに近くにいたカナエが、今は敵としてとしか会うことが出来ない。 言いようのない寂しさと揺るがない決意を胸に、タマキはまた自分の家へと向かって歩き出した。 今はもうこんなにも遠いのに、 月はあの時のままだね 天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも back |