DC1カナエGOOD END後、逃亡中の設定です


日本を逃げ出してからもう随分経った。
タマキとカナエは、二人で幸せに暮らせる場所を求め、いろんな土地を転々としていた。
そんな二人が今いるのは雪に覆われた小さな街だった。
窓から覗く景色は一面雪だ。

「タマキ君、ホットミルク飲む?」
「うん、ありがとう」

小さなアパートの一室に暮らす二人は慎ましくも幸せな生活だ。
死と隣り合わせだった以前の生活とは真逆の穏やかな日々。
暮らしていく為にカナエが働きに出ているが、この小さな街は突然現れた異国の人間に対して優しかった。
深い事情も聞かずに雇ってくれて、このアパートまで紹介してくれたのだ。

「ずっとここで暮らせたらいいのにね」

そうカナエが言ったのはここで暮らし始めてすぐのことだった。
それはまだ雪に覆われる前の秋のことだった。

カナエから受け取ったカップに口をつけながら、タマキはもう一度窓の向こうに視線を移した。
白銀の世界とはまさにこのことだろう。
誰一人と見えない街は無音かと思えるほど静かだ。
仲間も家族もみんな捨て去ってここにいるのに、なんだか寂しさが込み上げてきた。

「この景色を見てると寂しくなる」
「そうかな?」

俺は好きだよ、静かで落ち着くから。
カナエはそう言いながら背後からタマキを腕の中に閉じ込めた。
少し肌寒い部屋で、人肌の温もりが心地好い。
カナエの胸にそっと背中を預ける。

「それに世界に二人っきりになったみたいじゃない?」

笑ったカナエの笑顔は幸せそうだ。
この世界に二人だけ。
自分達を追ってくる奴らのいない世界。
それはこの幸せが壊れることがないということだ。
でもそれは同時に自分達が捨ててきた人達もいない世界ということになる。
自分から手放したくせに、それは寂しい。
もう二度と会えないとしてもだ。
何も答えることの出来ないタマキのおでこにカナエがキスをひとつ落とした。

「この街にもあとどれくらいいれるか分からないんだ」

手を伸ばして、白い世界をカーテンで遮る。
タマキと向かい合い、手に持っていたカップを取り上げた。

「だから余計なことを考えるのはやめよう」

後頭部に手を回して近付いてきたカナエに頷いて瞳を閉じた。

冬景色、なんだか寂しい。

田子の浦にうちいでて見れば白妙の
富士の高嶺に雪はふりつつ

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