一人で買い出しに出掛けた帰り道。
てくてくと近道の公園を歩いていると、空がぽつりと雨が降ってきた。
これくらいの雨なら歩けないことはない。
気に留めずにいると突然バケツをひっくり返したような雨が落ちてきてアラタは咄嗟に近くの遊具の中に隠れた。

地面を叩き付ける雨の音がうるさい。
遊具の中は昼間だというのに空を覆う雲のせいで薄暗い。
どうせ通り雨だろうとたかをくくって待ってみたが、なかなか弱まる気配はない。

「早く止まないかなぁ」

小さく呟いた声は雨音に掻き消された。
同時に小さかった頃にも同じような経験をしたことを思い出してしまった。

それはまだアラタが小学生のときだった。
いつものように夜まで遊んでいなさいという母の言葉に頷き、一人で公園に来ていた。
砂場でお城を作ったり、ブランコに乗って遊んでいると、今みたいに突然雨が降り出したのだ。
周りの子供たちが慌てて遊具の中に隠れるのにアラタも続く。
最初はみんなで話が出来るからよかった。
けれどみんな心配した家族が迎えに来て、最後にはアラタ一人になってしまったのだ。
自分の母親は心配してくれているんだろうか、・・・それとも帰ってこないことに喜んでいるのだろうか。
幼心にそう思って声を上げて泣いたという嫌な思い出だ。
あの時は結局弱まったのを見計らって自分で帰った。
じゃあ今回は・・・?
携帯を持っているから連絡して迎えに来てもらうことは出来る。
でもなぜだか携帯を取り出そうという気分にはなれなかった。
未だ弱まらない空をちらりと見上げる。
あの時の気持ちが妙にリアルに甦ってきて、雨に濡れた袖で目元を乱暴に拭った。



「こんなところにいたのか!」
「タマキ、ちゃん・・・?」

なかなか帰って来ないから外に出たら雨が降ってて心配したんだぞ。
叱るような口調だけど、安堵の表情を浮かべている。
なんで連絡しないんだと言いながら傘を差し出すタマキの腕を思いっきり引っ張って抱き着いた。

「こら、濡れちゃうだろ!」
「ありがとう、タマキちゃん」

ぎゅっとしがみついたところから、タマキの体温が伝わってくる。
アラタの様子がいつもと違うことに気付いたのか、タマキが頭を優しく撫でた。

「みんな心配してるから帰るぞ」
「うん」

タマキから離れて隣に並んで歩き出す。
まだまだ子供なんだからと繋がれた手が温かくて、涙がこぼれそうになった目元をゴシゴシと摩った。

袖が濡れる理由は雨だけではない

秋の田のかりほの庵の苫をあらみ
わが衣手は露に濡れつつ

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