それは当然のように二人でキヨタカの家に帰ったときだった。
コートを脱いでネクタイを緩めたとき、携帯が鈍く振動する音が聞こえた。

「はい」

今までニヤリと嫌な笑顔を見せていたキヨタカが、真面目な顔になって電話に出た。
ちらりと見えた画面には父である公安部長の名前が表示されていた。

「分かりました、すぐ行きます」

そう締め括ってキヨタカは電話を切った。
最近上層部からの呼び出しが多い。
肉体的にも精神的にもキヨタカが疲れているのは目に見えて明らかだった。

「隊長」
「今から行かないといけなくなった」

解いたネクタイを締め直しながらキヨタカが言った。
何か言いたそうなタマキの言葉を遮るように。

「家の中は自由に使っていいから」

わしゃわしゃと髪を掻き混ぜて、チュッと触れるだけのキスをしてキヨタカは出て行った。
自由に使っていい、とは信頼されていると思う。
しかし家主のいないこの家は、タマキにとって広過ぎた。
何もかも持て余してしまう。
ポケットから合い鍵を取り出して、タマキはキヨタカの家を出た。

*

疲れているのは見ていれば分かる。
でもキヨタカはそれをタマキの前では隠そうとする。
恋人だから少しくらいは力になりたい。
そんなタマキの気持ちをキヨタカは分かっているのだろうか。

自分はキヨタカにとって必要なんだろうか?

そう思うとくすんだ心がどんどん大きくなってきてしまった。
数日後、またキヨタカの家を訪れたタマキは思い切って口を開いた。
最初に話があるんですと前置きすると、キヨタカも真剣な顔でタマキと向き合った。

「俺は、隊長にとって本当に必要なんでしょうか?」

ずっと心に秘めていた不安。
否定してくれると信じていたけれど、考えれば考えるほど不安は大きくなった。
大きくなった不安に押し潰されそうになるくらいに。

「なぜそう思うんだ?」

そう答えたキヨタカの声は温度がない。顔も無表情だ。

「疲れていても俺の前では見せようとしないじゃないですか」
「そんなことはない」

静かに、でも力強くキヨタカは言いきった。
でもタマキは頼られている、そんな実感は微塵もないのだ。

「そんなことあります・・・!」

今にも決壊しそうな気持ちを押し止めて答える。
と、ふわりと首に腕が回された。
驚く暇もなくキヨタカの腕の中に閉じ込められる。

「こうやっていつもタマキに甘えてるだろ」

耳元で聞こえた声は普段より少し幼い。
肩に顔を預けたままキヨタカは続けた。

「こうやって甘えられるのはタマキだけだ」

今度は大人っぽくそう言って抱きしめる腕の力を強めた。
これがキヨタカなりの頼り方なんて、言われるまで気付かなかった。

「・・・分かりづらいんですよ」

そう独り言のように呟いて、タマキもその大きな背中に腕を回した。

力になりたい

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