眠る君に、秘密の愛を

「あ、忘れ物・・・」

ワゴンで作業をしているとカゲミツが声をあげた。
時間はすでに夜の11時を過ぎている。

「また明日でいいじゃん」

どうせ急ぐものでもないんだろ?とヒカルは言うけれど。
せっかくいい具合に作業が進んでいるので、このまま続けてしまいたい。
そのためにはどうしてもその資料が必要だった。

「やっぱ取ってくるわ」

いってらっしゃいと呆れ顔のヒカルに軽く手を振りワゴンを出た。

誰もいないはずのミーティングルームの扉を開くと、なぜか光がついていた。
消し忘れかと思って中に入ると、机に顔を預けて寝息を立てているタマキがいた。
机の上には資料が散乱している。
きっと、報告書を書いている途中で疲れて眠ってしまったのだろう。
誰もいないのをいいことに、カゲミツはそっとタマキの寝顔を覗き見る。

「可愛い・・・」

なかなか見ることが出来ないタマキの寝顔をまじまじと見る。
思わず、髪を撫でたくなって手を伸ばしかけて我に返る。
寝ている相手に、何をしようとしているのか。
触れてしまうと、何かが崩れてしまう気がした。
伸ばしかけた手を、ぎゅっと握る。

「すきだ・・・」

思わず呟いた想いは誰にも届くことなく空気に溶けた。
届かなくても、どうしても、この気持ちを伝えたかった。
しばらくじっと立ったままタマキを見つめていたが日付が変わったことを知らせる音にはっとする。
こんなところで寝ていては、風邪をひいてしまう。

「タマキ、起きろ」
「んん・・・」

ぐずるタマキは、いつもよりも子供っぽく見える。
風邪ひくぞと体をゆすってやると、ようたく重いまぶたを開いた。

「・・・カゲミツ?」
「こんなところで寝てると風邪をひくぞ」

そう言われて、タマキはぐるりと顔を見渡しあっと声をあげる。
作業中に寝てしまったことに焦っているのだろう。
再び机に向かおうとするタマキを優しく制する。

「お前は頑張り過ぎなんだよ」
「カゲミツだって、こんな時間に何してるんだよ」

タマキに言われてカゲミツはここへやってきた意味を思い出す。

「あ、忘れ物を取りに来たんだった」
「カゲミツだって、こんな時間まで仕事やってるじゃん」

タマキはそういうとお前も頑張り過ぎだろと笑った。
カゲミツも、その笑顔につられて一緒に笑う。

「今日は遅いからもう帰るよ」

タマキはそう言うと資料を整理して上着に袖を通した。
カゲミツも取りにきた資料を手にし、一緒に部屋を出る。

気をつけて帰れよとカゲミツが言うとタマキは片手を上げて笑顔で答えた。
その笑顔に、心がほっと、温かくなる。
今は、この関係が心地良い。
先ほどの告白を心にしまって、カゲミツはワゴン車に戻った。

by確かに恋だった様(無防備なきみに恋をする5題)
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