「タマキ君は恋したこと、ある?」

カナエにこんなことを聞かれたのは、昼ご飯を食べた帰り道のことだった。
へ?と思わず間抜けな顔をしてしまったタマキに、カナエがクスクスと笑う。

「さっき隣にいた女の子達が熱心に話してたでしょ?」

そう言われて納得した。
さっきご飯を食べた店で隣にいた女の子達がずっと恋の話に花を咲かせていたのだ。
カナエとタマキが入店したときにはとっくに食事を終えていたのに、結局二人が出る頃になっても彼女達の話は尽きることがなかった。
そんなに長くいた訳ではないが、隣にいる間、話題はずっと恋愛についてだった。

「凄かったな・・・」

思い出して苦笑を浮かべたタマキにカナエも頷く。
多分彼女達は今もあの店で話し続けているだろう。
何をそんなに話すことがあるのかと思うけれど、説明されたところで理解出来る自信はない。
そんなことを考えているとカナエに名前を呼ばれた。

「タマキ君は恋をしたことあるの?」
「あぁ、あんなに熱中はしてなかったけど」

そりゃいい大人の男なんだから、恋のひとつやふたつくらいは経験があるだろう。
そんなことを聞いてくるカナエを不思議に思って口を開いた。

「カナエもあるだろ?」
「・・・それが分からないんだ」

困ったように眉を下げたカナエをまじまじと見つめる。
ほわんとした性格だとは思っていたけれど、ここまでほわんとしているとは。
となると、タマキの頭の中にひとつの疑問が浮かんだ。

「まさか女の子と付き合ったことないのか?」
「え、いや、それはあるよ」

即座に否定で返されてちょっとした混乱に陥ってしまう。
好きになったことはないけど、付き合ったことはある。
それって不埒じゃないのか?
ジト目でカナエを見る。

「好きでもない子と付き合ってたのか?」
「付き合ってみたら好きって気持ちが分かるかなと思ったんだけど・・・」

なるほど、カナエに悪気はなかったのか。
相手に応えようとした結果、チャラ男のような行動になってしまっただけで。
それは余計に質が悪い気もするけど。
うーんと唸ると、カナエが困ったように声を掛けてきた。

「だからね、教えて欲しいんだ」

恋をすること、好きになるということを。
昼間、街を歩きながらする話じゃない。
そう思いながらもカナエの真剣さに負けて、タマキはこくんと頷いてしまった。

「恋をすると、どんな風になるの?」
「まずは何かその人のことが気になりだすなぁ」
「そうなんだ」

うーんと考えるカナエは過去を振り返っているのだろうか。
構わずに話を続ける。

「次はその人のことばっかり考えるようになって、その人の顔が見たくなったり、話したくなる」
「うん」
「で、それで一緒にいたいなって思うようになるかな?」

過去の自分の経験を思い出しながら話すと、カナエはなるほどと声をあげた。

「わかったか?」
「うん」

そうか、と話を終わらせようとした言葉は声に出すことが出来なかった。
なぜならば・・・

「俺がタマキ君のことを考えてるときみたいだ」

なんてすっきりした笑顔で言うのだから。
唖然とするタマキを更なる衝撃が襲う。

「俺はタマキ君に恋してるんだね」

家でタマキ君のことばっかり考えて、会いたくなっちゃうんだ。
笑顔でそう言われてしまえば無下にすることも出来ない。
何より驚きなのは、男に好きだと言われているのに嫌悪感を感じないことだ。
頭を整理出来ないままカナエに腕を取られる。

「ということだからちょっと遠回りして帰ろ?」

そう言われて取られた腕を弱い力で引かれた。
振りほどけないほどの力ではないのに、体はすんなりと進行方向を変えた。

「ありがとう、タマキ君」

まだ頭の整理がつかない。
ニコニコと歩くカナエを見ながら、混乱する頭を落ち着かせようとするのだった。

(恋ってなあに?)
僕がきみを、想う気持ち

by確かに恋だった様(恋ってなあに?5題)

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