「再来週、出張に行くことになった」

そうキヨタカに告げられたのは休みの前日、二人で並んでテレビを見ているときのことだった。

「・・・へ?」
「それも一週間だ」

ポカンとしたタマキに構うことなくキヨタカは言葉を続ける。
仕事とプライベートを合わせると一年のうちに顔を合わさない日は両手で数えられるくらいだというのに。
それが一週間も会えないなんてどんな風になってしまうんだろうか、想像がつかない。
多分だけど。とてつもなく、寂しいだろう。

「毎日電話する」

そう言ったキヨタカは恋人らしく甘く優しい声だった。
しかしタマキはしっかりと否定した。

「声を聞いたら、絶対会いたくなっちゃいますから」
「そうか、俺は毎日声が聞きたかったんだが。我慢しよう」

電話でするのもいいかと思ったんだけどな。
眼鏡を指で押し上げたキヨタカから小さくこぼれた声を聞き返そうとしてやめた。
なんだかよろしくない意味合いの言葉が聞こえた気がする。

「帰ってきたらたっぷり聞かせるんだぞ」

いやらしいことなんて言っていないはずなのに、なぜかふるりと背筋が震えた。
ハッとしてキヨタカを見るとクツクツと楽しそうに笑っている。

「部隊の様子を、だぞ?」

まるで全部お見通しだというように。
何か含んだ言い方にタマキが頬を膨らませた。



そして出張のときがやってきた。
キヨタカはお土産を買ってくると頭をくしゃりと撫で、颯爽と旅立っていった。
たったの一週間だ。日数でいうと7日だ。時間で言うと168時間だ。
なんだ、大したことないじゃないか。
そうは思ってもデスクに座るキヨタカの姿がないだけで少し気持ちが沈んでしまう。
はぁと大きな溜め息を吐き出すと向かいに座っていたトキオが楽しそうに笑った。

「早過ぎ」
「何が」
「キヨタカ隊長がいなくて寂しいんだろ」
「別にそんなんじゃ・・・!」

デスクを見て溜め息をついていたからバレバレなのに、つい虚勢を張ってしまう。
ふーんと目を細めたトキオが、キーボードを叩いた。

「じゃあタマキは大丈夫だって報告しておくぞ」
「ああ」

不機嫌に頷いて、タマキも目の前の書類に向き直った。



メールくらいはと思っていたのに、初日も次の日になってもキヨタカからメールがくることはなかった。
自分から送ればいいものの、それじゃあまるで寂しいといってるみたいで憚られた。
それに慣れない環境でメールをする余裕がないのかもしれない。
なんでも完璧にこなしてしまうキヨタカに限ってそれは考えにくいことだけど。
それに本当に参っていたら連絡してくるはずだ。
キヨタカがそういう弱さを見せられる相手は、自分だけだから。
文字を打とうとしていた携帯を閉じてベッドの上に放り投げた。
キヨタカには一週間くらい平気だと言ってしまった手前、自分から送ると負けた気分になってしまう。

「一週間くらい、なんてことない・・・」

小さくそう呟いて、ベッドの上に身体を沈めた。


キヨタカが出張してから四日が経った。
相変わらず連絡がないし、タマキからも取っていない。
トキオとは仕事関係でちょくちょく連絡を取っているみたいだけど。

「キヨタカ隊長が飯が上手いからみんなにも食わせたいってさ」
「あ、そう」
「今日も不機嫌だねー」

みんなじゃなくてタマキって言ってくれたらいいのに。
いくら公認の仲とはいえ、仕事の内容でそんなこと書くべきではないと分かっている。
けどトキオから聞かされるのは出張をそれなりに楽しんでいる話ばかりだ。
自分はこんなにも寂しいというのに。
帰ってきたらしばらくキヨタカの言うことに反抗してやろう。
そんなことを考えているうちに一日は終わってしまった。

家に帰るなりパソコンの電源をいれた。
写真を見るくらいなら大丈夫だろう。
でも変なプライドで二人の写真は避けて、みんなで写っているものを見ていた。
しかしその考えが甘かった。
姿を見れば声が聞きたくなる。触れたくなる。
電話もメールもする気はなかった。
慌てて検索するためにカタカタと文字を打ち込んだ。



「一週間くらい平気じゃなかったのか?」
「電話もメールもしてないじゃないですか」
「だからってこんな時間に来るとは思ってなかったぞ」

タマキが検索したもの、それは新幹線の予約サイトだった。
ラッキーなことに最後の二日間はちょうど休みの予定になっていた。
荷物もそこそこに最終に乗り込んで、キヨタカが宿泊するホテルへとやって来たのだった。

「トキオは全然平気そうだと言っていたのに」
「平気な訳ありませんよ」

離れている間張りっぱなしだった虚勢が、目の前にするとどこかへ飛んでいってしまうみたいだ。
寂しかったと胸に飛び込めば俺もだと大きな腕で包み込んでくれた。

「明後日、一緒に帰ろう」

キヨタカの言葉に小さく頷いて、背中に回す腕の力を強めた。


「みんなで食べに行きたいお店って、どんなところですか?」

しばらく無言で久し振りの再会に浸っていたタマキが突然口を開いた。
その言葉にはどこか刺々しさを感じる。

「タマキと二人で行きたいところが別にあるんだ」

今度二人で来るときに取っておこうと考えていたんだが。
タマキの刺々しさを理解したキヨタカがそっと耳元で囁く。
途端に真っ赤になったタマキが愛しい。

「両方、行きたいです・・・」

精一杯の反抗にキヨタカがクスクスと笑う。

「あぁ、両方行こう」

優しくそう言われて満足したタマキは、またキヨタカの胸の中に収まるのだった。

愛があれば
(距離なんて飛び越えられるものなんです)

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