他人にキョーミないし、っていうか他人は利用するものだし。
一瞬の気の緩みが死に直結しちゃうようなオシゴトだから変に関わるだけムダだ。
余計な感情は捨てて、無心で働き続けていたら知らないうちに結構な地位まで上り詰めていた。
特殊部隊の中でも最も優秀な部隊のリーダー。
部下や後輩が傷付いたら自分が面倒だ。
そう思って率先して前に出たら頼れるリーダーなんて言われちゃって尊敬なんかされちゃって。
自分でも要領はいい方だと思ってたけど、ここまでくると出来過ぎだ。
飲みの誘いを断っても、リーダーが暇な訳ないですよねって勝手に納得して。
一体どんなイメージを抱いてるかは知らないけれど、少なくともおまえ達が思ってるような人じゃないよ。
言ったところで自分も彼らも得をしないから言わないけど。
心の中ではそう思っていた。


それはJ部隊に配属されてからも同じだった。
今まで所属した部隊のどれよりも人間味があって仲間意識が強い。
ワケありなメンバー揃いだというのにまるでそんな空気は感じさせない。
最初厳しかったタマキへの目線も、日を追うごとに優しくなっていった。

今日もへらりとした仮面を貼り付けて適当に会話に混ざる。
詰まらない。馴れ合いなんてしたくない。
タバコ吸ってくると言って、一人屋上に向かった。

大都会シンジュクにも空はある。
ゆっくりと流れていく雲を眺めていると、誰かが屋上にやってくる気配がした。
どうせこのビルのオーナーがタバコを吸いに来たんだろう。
くだらない会話に付き合わされる前に戻ろう。
そう頭で計算を立てて最後にと持っているタバコを口につけた。
だけど声を掛けてきたのは予想外の人物だった。

「そんなんじゃツライだろ」
「は?」

驚いて振り返ると太陽に反射してキラリと光る金髪が目に入った。
無愛想な表情でドアのすぐ横の壁に背を預けている。

「だからそんなんじゃツライだろって言ってんだよ」
「は?」

(何分かったようなこと言ってんだ?)
今まで腕を乗せていた柵に今度はもたれかかる。
心の声は口に出さなかったけれど、カゲミツは俺には分かるんだよと言った。

「俺はこの部隊のリーダーだ、気軽に話し掛けるな」
「今は休憩中だろ、そんなの関係なしだ」

何なんだ、コイツと思わず警戒心を剥き出しにしてしまう。
今までこんな風に接してくるヤツは一人もいなかった。
こんなお坊ちゃんに何が分かるんだ、分かってたまるものか。
思わず睨んでみてもカゲミツは鬱陶しそうにその視線を受け流す。

「一人じゃ生きていけねーんだよ」
「何、言ってんだよ」
「お前は一人で大丈夫って思ってんだろうけど、そんなの無理だ」

なぜ年下の、しかもお坊ちゃんに説教されてるんだ。
そうは思っているのに口が勝手に動いて声を発していた。
カゲミツの言葉には妙な説得力があったのだ。

「なんで、」
「だって、一人じゃ寂しいだろ」

心の中にずっとずっと閉じ込めていたものを無理矢理掘り起こされた気分だ。
寂しくなんかない、寂しさなんて必要ない感情だ。
大人になってからは、ずっとそうやって生きてきたのに。
それを悟られないようにするのは、誰よりも上手いと思っていたのに。

「ま、俺も受け売りだけどな」

パッと表情を変えたそう言ったカゲミツは、さっきの言葉とは裏腹に子供みたいだった。
言葉に詰まっているとカゲミツが近寄ってきて隣にきた。
同じように柵にもたれかかる。

「こんな仕事してるからこそ、尚更誰かと一緒にいるのが大事なんじゃねぇの?」

うわ、タバコくせぇ!
飛びのこうとしたカゲミツの腕を取ったのは完全に無意識だった。
驚いて目を瞬かせるカゲミツにへらりと笑ってみせる。
この笑顔にウソはない。

「じゃあまずはカゲミツがトモダチになってよ」
「トモダチって何だよ」
「俺とトモダチになりたいってことじゃないの?」
「ち、ちげーよ!ただ馴れ合いも悪くねぇって・・・」

カゲミツの言葉がふいに途切れたと思ったら、笑った。またガキみたいに。

「ちゃんと笑えんじゃねーか」
「へ?」

そう言った笑顔が本当に綺麗で、胸がくすぐったくなる。
思わず間抜けな声を出してしまった。

「そろそろ休憩終わるぞ」

遅れるとあのクソ眼鏡がうるせーんだよ、そう言って腕を掴まれたままカゲミツは歩き出した。
つられるように足を進める。


あの胸のくすぐったさの名前は知っている。
けれどまさか男相手に抱くとは思ってはいなかった。
だけど自分を深く理解してくれそうなコイツなら・・・

(トモダチじゃなくて、コイビトでもいいかもしんない)

(恋ってなあに?)
不意に、胸を疼かせた

by確かに恋だった様(恋ってなあに?5題)

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