夜の10時が過ぎた頃。
黙々と仕事をしていたヒカルがふわぁと声を上げて両手を伸ばした。
ちらりと時計を確認して、ノートパソコンをぱたんと閉じる。

「ちょっとミーティングルーム行ってくる」
「なんか忘れ物か?」

ワゴン車を出るならちょっと買い物でも頼もうか、そう考えたカゲミツにヒカルが首を振って答える。

「いや、キヨタカがまだ残ってんだよ」
「そうか」
「最近無理してるみたいだから、たまには止めてやんねぇと」

普段はあの変態やら眼鏡やら。
散々文句を言ってるくせに何だかんだで恋人なんだと心の中で思う。
買い物は頼まない方が良さそうだ。
二人の仲にあてられたカゲミツは茶化すみたいに手を振ってやった。

「こっちは一人で大丈夫だから、さっさと大好きなキヨタカのところに行ってやれよ」
「誰も大好きなんか言ってないだろ!」
「本当だからって怒るなって」
「・・・・・・ありがと」

行ってくると出て行ったヒカルを見送って、カゲミツも動かす指を止めた。
ふと脳裏に浮かぶのは絶賛片思い中のタマキの顔で、はぁと息を吐き出す。

「もし付き合ったら、タマキもこんな風に来てくれんのかなぁ」

もしなんて想像に意味がないことなんて分かっている。
けれどここ最近睡眠時間を削ってまで仕事をしているのだ。
少しくらい妄想許してくれよ、なんて誰に言う訳でもなく心の中で断って背もたれに体重を預けた。



コンコンと控え目にノックされたドアを開けると、そこにはタマキが立っていた。
夜はもう遅い、どうしたのかとカゲミツが尋ねるとタマキは小さな声でこう答えた。

「最近カゲミツが頑張り過ぎてて心配になって」

見上げてくる瞳が心配そうに揺れていて、愛しさが込み上げてくる。

「大丈夫だ、これもタマキ達が無事に任務をするためだからな」
「カゲミツ・・・ありがとう」

ニッコリと笑うタマキを見るだけで、今まで感じていた疲れが吹っ飛んだ気がする。
愛の力というのは偉大だ。

「もう遅いし、送っていくよ」
「いや・・・、」
「どうした?」
「ヒカルがいないなら、もう少し一緒にいたいな、なんて・・・」

恋人にこんな恥ずかしそうに目を伏せられて断れる奴がいるなら是非とも会ってみたい。
カゲミツはタマキの申し出を二つ返事でワゴン車に招き入れた。

「カゲミツ、頑張ってな」
「おう、サンキュ!」
「じゃなくて、ずっと見てるだけじゃ淋しいから」

そんなこと言われてしまえば、やる気がモリモリと湧いてくる訳で。
大きく頷いてパソコンに向かった・・・



そこまで頭の中で妄想を膨らませて、カゲミツはもう一度息を吐き出した。
実際タマキと付き合っている訳ではないので、こんなこと起きる訳はない。
恋人が心配してくれるキヨタカを羨ましく思いながらパソコンを開いた。

「いつか、現実になればいいのになぁ」

しみじみとこぼれ落ちた言葉は、誰に聞かれることもなく宙に消えた。
(恋ってなあに?)
愛になる日を夢みてる

by確かに恋だった様(恋ってなあに?5題)

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