ブラブラと街を歩けば嫌でも目に入る言葉を追っては溜め息をこぼす。
年末からクリスマス、お正月、最近では節分もとイベント続きのところに今度はやたらと可愛く装飾された文字がこれでもかという程踊っている。
街を歩く女の子たちも今年は手作りを渡すやら、有名なブランドが限定品を出すらしいやら。
特に気になる訳でもないのに、つい耳に入ってきてしまう。
ふと見上げたコンビニの入口を見て、タマキは今日何度目かの溜め息をこぼした。

『大好きなあの人に、気持ちと一緒にチョコを送ろう』

2月の一大イベントといえば節分、ではなくてバレンタインだ。
もちろんタマキも節分が一大イベントだなんて思ってはいない。
ただちょっと特殊な恋人を持つタマキは、この一大イベントをどうしたらいいのか答えを出しあぐねていたのだ。
横を通るふりをしてコンビニの目立つ場所に置かれたチョコを盗み見る。
可愛らしいラッピングのものばかりで、とても自分が買える雰囲気ではない。
悩んでいるのを知ってか知らずか、トキオがさりげなく逆チョコも流行っているらしいぞと教えてくれたけれど、女性に贈るようなものばかりだった。
男性でしかも年上の恋人に贈るのは少し躊躇われる。
手作りという選択肢も一瞬頭を過ぎった。
優しいキヨタカのことだから喜んで美味しそうに食べてくれるに違いない。
しかしそれだとただの自己満足だ。
そう考えれば考えるほど深みに嵌まってしまい、気付けばバレンタインはあと数日というところまで迫ってきていた。



そして、バレンタイン当日。
仕事が終わり、一度自宅に戻ってからキヨタカの家に向かった。
カバンには綺麗にラッピングされたプレゼントを入れて。

家までの道を歩く間も、喜んでくれるのかとずっとドキドキしていた。
食事を終えて、キヨタカがワインを用意する間にこっそりとプレゼントを取り出す。
用意を終えたキヨタカがソファーに座ったとき、それを差し出した。

「これ、受け取って下さい」
「ありがとう、開けていいか?」

そう微笑むキヨタカにコクコクと頷いて答える。
ラッピングを綺麗に外す手をじっと見つめる。

「これは」
「よくコーヒーを飲んでいるので・・・」

タマキがバレンタインのプレゼントに選んだもの、それは高級なコーヒー豆だった。
キヨタカが感心したようにそれを見つめる。

「俺の好みだ」
「恋人、ですから・・・」

コーヒーの好みくらい分かります。
自分で言って恥ずかしくなり、語尾が聞き取れないほど小さくなってしまう。

「そうか、嬉しいよ」

そう笑ったキヨタカが突然立ち上がったので、俯かせていた顔を上げた。

「実は俺も用意しているんだ」

そう言って渡されたのはシンプルなデザインがお洒落なネクタイピンだ。
パッと見ただけで自分にはきっと手が出ないだろうと思うほど高級感が漂っている。

「あ、ありがとうございます」
「喜んでもらえたならよかった」

ネクタイピンをカバンにしまい、もう一度ソファーに座り直す。
出されたワインに口をつける。
上品な舌触りを楽しんでいると、キヨタカがニッコリと笑顔を見せた。

「ホワイトデーも期待しているぞ」
「・・・えっ?」
「今度は甘いものがいいな」

しっかりと希望まで付け加えられて。
幸せだけど苦悩の一ヶ月がまた始まってしまったのだった。

A good Valentine's Day

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