※オミの子供時代を捏造しています
※ヒサヤもいろいろ捏造してあます

「なんか気になるんだよね」

広い自室で午後のティータイムを楽しんでいるそのとき。
誰に言う訳でもなくぽつりと呟いた言葉は、自分の兄弟のように育っていた従者の耳にしっかりと届いていたらしい。

「イチジョウ、カゲミツ様ですか?」

思いがけない返事にビクリと肩を揺らすとヒサヤは申し訳ありませんと頭を下げた。

「いいんだけど、そんなに大きな声だった?」
「こちらに聞こえるくらいには・・・」

オミが座るテーブルからヒサヤの立つ入口までは5mほどある。
そんなに大きな声で言ったつもりはないんだけどな。
意外と大きくなってしまっていたのかと考えて、思い出した。
彼は自分のどんな小さな独り言さえも拾ってしまうのだ。
焦って損した、なんて思いながらイチゴのショートケーキを口に含む。

「ヒサヤが地獄耳だって、すっかり忘れてたよ」
「申し訳ございません、聞くつもりはなかったのですが」

普段はあまり表情を見せないヒサヤが珍しく困ったようにオロオロとしている。
面白いからもう少しいじめてやろうかと思ったけれどやめておいた。
真面目なヒサヤが真に受けて近くにいなくなったら困るのは自分だ。
モグモグとケーキを食べながら、ヒサヤを呼び寄せる。

「あの子もケーキ食べたらこんな顔、するのかな?」
「こんな顔とは?」
「美味しそうな顔、してない?」

いえ、とても美味しそうです。
無表情でそう言われてもなぁ。
慣れたことなのでそこはスルーし、また金髪の彼のことを思い浮かべる。

「あの子がケーキ食べてるところ、見てみたいなぁ」

いつもみたいに不機嫌そうな顔で食べるのだろうか、それともケーキを食べるときくらいは笑顔が見れるのだろうか。
笑顔が見れるのなら一緒にケーキを食べてみたい。

「オミ様、そろそろお時間です」

カゲミツの笑顔を考えてふわふわとしていたけれど、ヒサヤの声で我に返った。
残りのケーキを食べ切り、最後に紅茶を飲んでから立ち上がった。


その後、一日中カゲミツのことが頭を離れなかった。
勉強をしているときも、夕食のときも。
お風呂のときもベッドに入って眠ろうかというときにも彼の顔が浮かんだ。
おやすみなさいませと明かりを消したメイドを思わず呼び止める。

「一日中誰かのことを考えていたこと、ある?」
「ええ、ありますよ」
「それってどんなとき?」
「恋をしているとき、です」

部屋が暗くて表情はわからなかったけれど、とても優しい声色をしているのはわかった。

「恋をすると、他のことが考えられなくなっちゃうんだね」
「そうですね」

柔らかく笑い、もう一度おやすみなさいませと言ってそのメイドは出て行った。
目を閉じると当然のように不機嫌そうなカゲミツの表情が脳裏に浮かぶ。

「あの子がいい夢を見られますように」

本人には届かない願いを呟いてゆっくりと瞼を閉じた。

(恋ってなあに?)
心の自由を奪うもの

by確かに恋だった様(恋ってなあに?5題)
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