美味しいものを食べると、人は幸せになるらしい

時計が19時をちょっと過ぎた頃、玄関から突然大きな物音が聞こえてタマキは料理の手を止めた。
キッチンからちらりと顔を覗かせると、パソコンを片手に抱えたカゲミツが疲れたといった表情で靴を脱いでいる。

「おかえり」
「ただいま」

だから労る気持ちを込めて笑顔で声を掛けると、カゲミツもふにゃりと顔を綻ばせた。
その無邪気な笑顔が子供みたいで何とも言えず幸せな気分だ。

「あー、腹減ったー」
「もうちょっとで出来るから」
「いつも悪いな」

すまなさそうな顔で謝るカゲミツに首を横に振って答える。
カゲミツ達諜報斑が日夜情報を集めてくれるから、タマキ達は任務を遂行出来るのだ。
恋人として夕食を作ることくらい何の苦にもならない。
今度の休みは俺が作るからと言うカゲミツに、タマキはもう一度首を振る。

「一緒に作ればいいじゃないか」

休みの日なんだからずっと隣にいたい。
とまではさすがに言えないけれどカゲミツには伝わったみたいで。
白い肌を少し赤く染めて顔を俯かせる姿は照れている証拠だ。
よくヒカルやオミに万年バカップルと言われるけれど、好きなんだから仕方がない。
そうこうしている間に料理を皿に盛り付けて、食卓へと運ぶ。
二人で同時に手を合わせて、いただきますと言って料理に手を付けた。

「タマキって料理上手だよな」
「そんなことないって」
「いや、何作ってもうまい」

本当にお腹が空いていたのか、
ガツガツと美味しそうに料理を口に運ぶカゲミツにタマキが苦笑を漏らす。
手の込んだものではないけれど頑張って作ったのだ、そう言ってくれるとやっぱり嬉しい。

「カゲミツ」
「ん?」
「ご飯ついてるぞ」

カゲミツが口元に手をやる前に、手を伸ばして米粒を取ってやる。
そのまま当然のようにぱくっと口に含むと、カゲミツが耳まで真っ赤になった。

「どうしたんだ?」

こくんと首を傾げると、その赤さが一層増した、気がする。
向かい合っていた視線を斜め下にずらした。
ポリポリと頬をかいてまっすぐにタマキを見据えた。

「タマキの作った飯はすげー上手い」
「あ、ありがとう」
「でも今は飯よりもタマキが食いたい」

言うが手を掴んでカゲミツが立ち上がった。
細いくせに男らしく引っ張るその腕が心がときめく。
あと少し残った食事はそのままに、二人でベッドへとなだれ込んだ。

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