はじめまして、さようなら

最近、やたらとカゲミツを目で追ってしまう自分に気付いた。
この感情に名前をつけるとすると・・・、

人々はそれをきっと「恋」と名付けるだろう。

最初は同じ境遇にいる親近感だったのかもしれない。
名門華族というだけで近付いてくるたくさんの人々。
薄っぺらい人間関係には、もう飽き飽きしていた。
そんなとき、カゲミツと出会った。
カゲミツは学校でもいつも一人だった。
いつも一人で窓の外を憂鬱な表情で見ていた。
きっと、窓の外の自由に憧れているのだろう。
名門華族のしがらみも何もない自由の世界。
直感的に、そう思った。自分も、同じだから。
きっと友達になれる、そう信じていたんだ。

「カゲミツ!」

にっこりと笑ってカゲミツに手を振った。
カゲミツはちらちとこちらに視線を向けたが、すぐに窓の外に向いてしまった。

「今日もいい天気だね」

めげずにカゲミツの隣の席まで近付く。
「はぁ・・・」心底嫌そうにため息をつかれた。
そこまであからさまに嫌がられると、正直、辛い。
ただ友達になりたい、そう思っているだけなのに。

それでも毎日話しかけていると、少しずつではあるがカゲミツは言葉を返してくれるようになってきた。
相変わらず不機嫌そのものといった表情のままだったけれど。
一言、二言と交わすだけでもカゲミツの心が開いてきている気がして、少し、嬉しかった。
カゲミツと少しずつ会話をしているうちに、だんだんと彼を救いたいという気持ちが出てきた。
世界はカゲミツが思っているよりも悪くない。
そう教えてあげたかったんだ。

そして、僕は気付いてしまったんだ。
僕が、カゲミツのことを、恋愛対象として、すきだ、ということに。
知らないうちに目で追ってるいるのだって、嫌そうにされたって毎日話しかける理由だって。
冗談で「友達が出来ない」なんて言ってしまったけれど、それは願望だ。
自分以外の誰かと話す、そんなカゲミツを見たくなかった。
カゲミツに、恋をした。
そう考えるとその気持ちは自分の胸にすっときれいに溶け込んだ。
しかし男が男に恋をする、そんなこと普通では有り得ないし、許されない。
ましてや二人とも名門華族の跡取り息子の身、決して許される訳なんてないのだ。

だから、初めて気付いたこの気持ちにさよならすることにしたんだ。
この気持ちが知れたら、カゲミツはきっと、軽蔑した目で見るに違いない。
そんなのは、とてもじゃないけど耐えれる自信がなかった。
今の不機嫌そうな顔でいいから、カゲミツと接点を持っていたかった。
いつか友達として笑い合える日がくると、そう信じて・・・

誰にも知らないこの気持ち、はじめまして、さようなら。
(そうつぶやいて、自分の心に鍵をかけた)

by確かに恋だった様(切ない恋ごころへ5題)
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -