それは仕事も終わり、身支度を整えてさぁ帰ろうとしたときのことだった。 明日は休みで、久し振りに二人でゆっくりとした時間が過ごせる。 ちらりと恋人の姿を盗み見れば、キヨタカも帰る準備が整ったところだ。 仲間には秘密の関係だから、偶然帰るタイミングが一緒になったようにしたい。 キヨタカがカバンを手に立ち上がったのを見計らって、タマキも立ち上がった。 「明日休みなら飲みに行こうぜ」 しかし一緒に帰りませんかと口を開きかけたタマキより先にカゲミツが口を開いた。 タイミングを失い、開きかけた唇をきゅっと噤む。 不自然に見えていないだろうかと心配しながら次の行動を考える。 これは先に帰って、後から合流した方がいいかもしれない。 タマキがぐるぐると思考をめぐらせていると、キヨタカの声が聞こえた。 「せっかくだが、今日は予定がある」 「なんだよ、つまんねーの」 「可愛い恋人との時間をたっぷりと満喫したいんでな」 それはごく普通の会話だった。 しかしちタマキをちらりと見て、ニコリと笑ったキヨタカに顔が熱くなるのが分かる。 「な、何言ってるんですか!!!」 思わず大声を上げたタマキに、一同の視線が集まる。 みんなきょとんと頭に?マークを浮かべている。 ただ、キヨタカだけが楽しそうにクスクスと笑っている。 「なんでタマキが赤くなってるんだ?」 最初に冷静さを取り戻したカゲミツの言葉に、タマキはようやく自分のしでかした失態に気付いた。 明らかにこちらに向けた一言だったけれど、キヨタカは名前を出していなかったのだ。 今まで熱かったはずなのに、一気にさーっと顔が青くなる。 「そういうことだ」 固まったままのタマキの肩に、キヨタカが腕を回す。 その慣れた仕草は二人の関係の深さを物語っているようだ。 驚きのあまり声の出ない仲間達を尻目に、キヨタカがタマキの腕を取って歩き出す。 「ではみんな、お疲れ」 笑顔でそう告げてパタンとドアを閉めた。 ようやく我に返ったタマキが真っ赤な顔でキヨタカに詰め寄る。 「隊長、みんなにバレちゃったじゃないですか!」 「俺は構わんぞ?」 颯爽と歩きながらもうオフだから隊長呼びはなしだという背中を追い掛ける。 自分はこんなにも慌てているのに、キヨタカは全く慌てた様子などない。 少しくらいこの気持ちを分かって欲しくてうーと唸ってみると、突然足が止まった。 前を見ていなかったせいで、その広い背中にどすんとぶつかってしまう。 くるりと向き合ったキヨタカは珍しく不服そうな顔をしている。 「俺と付き合っていることはみんなに隠したいことなのか?」 「いえ、そんなことはないんですが・・・」 男同士というのはやはり世間的に見てまだまだ偏見が多い。 J部隊のメンバーはそんな風に考えないとは思う。 しかし将来を約束されたようなキヨタカが、自分のせいでダメになってしまうかもしれないと思うと心苦しかった。 しかしそんな胸の内をすべて晒す訳にもいかず、もごもごと口ごもってしまう。 「俺はタマキが好きで一緒にいたい、隠す必要なんて感じないな」 そうきっぱりと言い切ってじっとタマキの顔を伺っている。 そこまで言われて、嬉しくない訳がない。 しかし、だ。 「俺達みたいな関係は、風当たりが・・・」 「言いたい奴には言わせておけばいい」 そう言ったキヨタカの顔があまりにもかっこよくて。 まだ葛藤は捨てきれないものの、コクンと小さく頷いた。 そんなタマキの頭をキヨタカが優しく撫でる。 「悪いことをしてるんじゃないんだ、堂々としていればいい」 「はい・・・」 穏やかに笑って手を重ねて歩き出す。 手をひく力が心強くて、タマキもその手をぎゅっと握り返した。 秘密の恋にサヨウナラ back |