「カゲミツのこと、好きでいることに決めたから」

それは深夜にワゴン車で作業をしているときのことだった。
ヒカルはキヨタカのところに行っているからこの車内には二人しかいない。
突然の告白に当の本人は意味が理解出来ないのか、パチパチと眠たそうな目を瞬かせている。

「何言ってんだ・・・?」
「何って、愛の告白?」

こちらは至って真剣なんだけど、カゲミツは面倒臭そうに欠伸を噛み殺した。
あ、これは冗談だと思ってる。

「いきなり何言い出すかと思ったら冗談かよ」

あぁ、ほらやっぱり。
つまんねー冗談はよせ、なんて顔も見ないで言われたらさすがにちょっと傷付くんだけど。

「俺は本気だよ」
「はいはい、それよりキヨタカがうるせーから仕事進めようぜ」

ちょっとくらい分かって欲しくて返した言葉も適当にあしらわれて。
今夜はこれ以上言っても無駄だと思い口をつぐんだ。


「どうしてわかってくれないかなぁ」
「人をからかって楽しむお前の気持ちなんかわかんねぇよ」

それから毎日。
隙を見つけてはカゲミツに愛の言葉を囁いてはみているけれど、いつも相手にしてくれない。
たった今も、今日何度目かの告白劇を繰り広げてみたもののあっさりはぐらかされてしまった。
師範学校時代からずっと、ずっと好きだったというのにどうして信じてくれないんだろうね。
最初は隠しておくつもりだった。
同性にそんな事言われても困るだけだろうし。
もしかしたら気の迷いかもしれないって思っていた。
でもその気持ちは時が経っても、状況が変わっても消えることはなかった。
敵対する関係だからきっとこの思いは告げることなく終わるんだろう。
そう思っていたのに、まさか一緒に働くことになるなんて。
仲間としてカゲミツは、昔のような無愛想ながらも時折昔はなかった優しさを見せるようになっていた。
これは彼のおかげかと思うと少し悔しくなるけど。
たまに気遣うような言葉を掛けられて、今まで燻っていた気持ちが抑え切れなくなり、あの日あんな言葉を掛けてしまったのだ。

この気持ちを否定されるのは仕方がない。
けれど冗談だと思われたままでは報われない。
ちゃんとわかってもらえるように言葉に持てる全ての真剣さを乗せてみたり、行動に起こしてみたりもした。
だけどカゲミツの態度は一向に変わることはなかった。
そんなある日のことだった。

「カゲミツ、好きだよ」
「そろそろ飽きねぇのかよ」
「飽きないよ、まだまだ言い足りないくらいだ」

今日もまた、届かない愛の告白を繰り返す。
カゲミツは呆れ顔でコーヒーを啜っているけれど、言い足りないというのは本心だ。
思い続けた時間に比べれば、口に出した言葉はあまりに少ない。
この思いは、カゲミツが想像以上に年季が入っているのだから。

「カゲミツがどう思うと、俺がは本気だし好きでいるから」
「・・・勝手にしろよ」

カタンとコップを置いてカゲミツは立ち上がった。
いつも冗談だと笑うくせに、初めて見せた違う反応に心臓がばくばくと音を立てる。

「それはプラスにとっていいわけ?」

ワゴン車を出て行く背中に、少し震えた声で投げかけても返事はなかった。
ただ、ちらりと覗いた耳が赤く見えたのは気のせいだろうか?

それからカゲミツあからさまに以前と違う反応を示すようになった。
好きだよと告げれば困ったように顔をしかめるようになり、二人きりになった瞬間口を閉ざしてしまうようになった。
なんだか妙に意識されているような、そんな感じだ。
カゲミツと名前を呼ぶと、一拍置いてから振り返る。
その様子にひとつの確信を持って向かい側に座った。
あの日と同じ、深夜、二人っきりのワゴン車で。
キョロキョロと視線をさまよわせるカゲミツの顔を真っ直ぐ見つめる。
頬がほんのりと赤いのは、自惚れじゃないはずだ。
いつも強気なカゲミツの意外な一面にどきりとしながら平静を装う。
カップに手を伸ばそうとした手に自分の手を重ねた。
それを追って落ちた視線を、顎を掬ってこちらに戻す。

「そろそろYesを聞かせてよ」

とびきり甘く、優しく、自分でもこんな声が出せるのかと驚くほどに。
目で訴えるようにカゲミツを見つめると、ぎゅっと綺麗な瞳が閉じられた。

「お前、ズルイんだよ・・・」

触れ合った手が絡められ、やんわりと力を込められて、ようやく気持ちが通じたと実感が出来た。
長い睫毛がふるりと震えるのが新鮮で、絡められた指に力を込めて唇を重ねた。
一生重なることのないと思っていた唇は、今まで経験したことがないくらいに甘かった。

一生分の片思い

byChien11様(前向きな片想いで5題)
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