今日はJ部隊のメンバーで飲み会があった。
ナイツオブラウンドが崩壊し、部隊が出動する回数も少なくなった。
だからたまには全員で宴会でもしようじゃないかというキヨタカの提案だ。
明日は休みで少しくらい飲み過ぎても問題はない。
となれば少しくらい羽目を外してしまうのは、仕方のないことだろう。
飲み始めて3時間、アルコールが回りグダグダになってきた頃にキヨタカが解散を告げた。
さらりと一人で会計を済ませ、気をつけて帰るようにと促す。
フワフワと浮ついた足取りでみんなが立ち上がる中、タマキはいつまで経っても立ち上がる様子がない。
心配になったカゲミツが声を掛けて顔を覗き込む。

「タマキ、大丈夫か?」
「う、・・・ん?」

むにゃむにゃと言葉にならない声を紡いで、机に突っ伏しそうになるタマキの肩をカゲミツが起こす。

「ほら、帰るぞ」

そう言っても立ち上がろうという気配はない。
仕方なく腕を自分の首に回し立ち上がらせる。
辛うじて意識はあるようだが、歩くことさえままならないようだ。

「カゲミツ、タマキの介抱は頼んだぞ」
「上手くやれよ」

先に出て行っていたキヨタカとヒカルが部屋を見てクスクスと笑う。
上手くやれよって、どういうことだ。
言葉を返そうと二人を睨むとヒカルがヒラヒラと手を振る。

「邪魔者はさっさと消えてやるよ」
「ちょ、待て」
「いい報告を待っているぞ」

カゲミツの制止も虚しく二人は去ってしまった。
タマキを抱えながらカゲミツは途方に暮れる。
ちらりと少し下を見遣ると、頬を赤く染めたタマキの顔があって酔ってもないのにカゲミツの顔が赤くなる。
タマキの家に行って、置いて帰ればいいだけだ。
しかしそれだけだと何だか惜しい気がして、カゲミツはタクシーに乗り込んだ。
行き先に自分の家を指定して。

いくら細いとはいえ、非力なカゲミツがタマキをベッドまで運ぶのはなかなかの労力を要した。
ベッドの上ですぴすぴと寝息を立てるタマキの髪をそっと撫でる。
一瞬気持ち良さそうに微笑まれて、どきりとしてしまった。
寝やすいようにと服を楽にしてやり、風呂に入ろうとカゲミツが歩こうとしたとき服をぎゅっと掴まれた。

「行かないで・・・」

か細い声ではあったが、静まり返った部屋でははっきりと聞こえた。
タマキがカゲミツと意識して言ったのかは分からない。
そもそも今のタマキにしっかりとした意思があったかどうかも怪しい。
しかしタマキにそんなこと言われカゲミツに振り切れる訳もなかった。

(タマキは酔っている、タマキは酔っている)

ぶつぶつと自分に言い聞かせるように繰り返して、カゲミツもタマキと同じベッドに入った。
それだけで安心したように笑うなんてずるい。
勘違い、してしまいそうになる。
あらぬ考えを起こさないようにタマキと逆の方向を向いてきつく目を閉じる。
酔ってぼんやりとした話し方が可愛い、赤い頬にどきどきしてしまう。
忘れようと思えば思うほど、鮮明に思い出してしまうのはなぜだろうか。
そうこうしている内にうとうとと、カゲミツの意識がまどろみ始めた。
背中がなんだか温かい。
事態を忘れてごろりと寝返りをうって、自分の置かれている状態を思い出した。
叫びそうになった口を慌てて手で押さえて留める。
目の前でタマキがすやすやと眠っていたら、意識もばっちり覚醒してしまう。
そろり、サイドテーブルにある時計を見るとまだ真夜中だ。
朝までまだ随分と時間がある。
またこの幸せなようでこの上ない苦行に耐えなければならないのか。
もう一度タマキの方に目をやると、ぐっすりと熟睡しているようで目覚める気配はない。

(ちょっと、ほんのちょっとだけだ)

なんとなく罪悪感を感じてタマキから目を逸らす。
それからタマキの両手を自分の両手でしっかりと包み込んだ。
酔っているせいか、子供のように温かい。
カゲミツが幸福感と罪悪感の狭間でゆらゆら揺れていると、タマキがんっと身じろいだ。
慌ててその手を離して、もう一度逆の方を向き目を閉じる。
少し触れたから満足出来たのか、今度は程なくしてカゲミツも寝息を立て始めた。


後日、ヒカルがニタニタと笑いながらカゲミツの隣にやってきた。

「で、どうだったんだよ?タマキと二人っきりの一夜は」
「・・・我慢し切れずに、触っちまった・・・」

ついにカゲミツも男を上げたかと意気込んで話を聞いたヒカルが、心底呆れた顔をするのはそれから5分後のことだった。

深夜の秘め事
ついった診断メーカーより
カゲタマへのお題は『「目を逸らしつつ、両手を両手で包む」キーワードは「真夜中」』です。

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