「遊園地のチケットを二枚貰ったんだ」

そうタマキに声を掛けられたのは三日ほど前のことだった。
ニコリと微笑まれ、全力で頷き日にちを決めてからカゲミツは気付いた。

(チケットが二枚、ってことはもしかして二人っきり!?)

それってデートじゃねぇか!
一人赤面してわたわたとしたかと思えば、明後日の方を向いてニヤニヤと顔を緩ませる。
オミもヒカルも呆れて何も言えないほど妄想を膨らませ、ついにその日がやって来たのだ。

待ち合わせの時刻よりも随分と早めに来たカゲミツがチラチラと時計を見遣る。
まだ来る訳ないと分かっているのに、逸る気持ちを抑えられない。
人を待つことがこんなにドキドキと楽しいものだなんて知らなかった。
よく知ったはずの景色もいつもと違って見えてくる。
カゲミツがドキドキと胸を高鳴らせていると、待ち合わせの五分前にタマキはやって来た。

「悪い、待ったか?」
「全然!今来たとこだから」

テレビで見たデートの決まり文句を交わすことが幸せだ。
じゃあ行こうかと言ったタマキに頷いて、二人は歩き出した。


「カゲミツは何に乗りたい?」

着くなり園内マップを手渡され、タマキがニッコリと顔を覗き込んできた。
赤面しそうになった顔を慌てて受け取った園内マップで隠す。

「俺、こういうとこ来たことねぇから」

だから任せる、と言う前にタマキが口を開いた。

「だからカゲミツを誘ったんだ、俺に任せるとか言うのはなしだぞ」

キッパリと言い切られて仕方なく園内マップに視線を落とす。
ジェットコースターやら観覧車やら、情報でしか知らないものばかりだ。
悩む時間がもったいなく感じ、デカデカと写真が載っているものを指差した。

「これ、本当に大丈夫なのかよ・・・」
「カゲミツがこれがいいって言ったんだろ」

行くぞと言って先へ進むタマキの後ろーカゲミツが不安げに続く。
カゲミツが指差したのはこの遊園地のメインアトラクションのジェットコースターだった。
高低差があり、スピードも速い。
この遊園地のジェットコースターは日本でも屈指の絶叫マシンだったのだ。
入口で見たときにはあまり気にならなかったけれど、間近に見ると思っていた以上に高さがある。
それを猛スピードで駆け降りる度に聞こえる絶叫に、カゲミツは恐怖を感じていた。
平日というのに意外と人はいるもんで、30分ほど待った後に順番がやってきた。
へっぴり腰になるカゲミツの背中をタマキが軽く押す。もう後戻りは出来ない。
安全確認を終えたスタッフが笑顔で手を振るのを尻目に、ジェットコースターは動き始めてしまった。
じわじわゆっくりと時間を掛けて斜面をのぼっていく。
止まった、そう思った瞬間にカゲミツは身体がふわりと浮くのを感じた。
人間驚き過ぎると声もロクに出ないらしい。
猛スピードで過ぎ去っていく景色を見ながらそう思っていると、強く握った手に温かなものが重なった。
ぎゅっと力を込められてなぜだかとても安心した。
急降下を終えてバーを強く握ったままの自分の手を見てカゲミツは初めて自分の状況に気付いた。

「タ、タマキ・・・!」
「こうするとちょっとは安心するだろ?」

ニッと笑った顔に見とれていると、またもやジェットコースターは突然急降下を始めた。
タマキの笑顔も手の感触も、一瞬で吹き飛んでしまった。

乗り終えたカゲミツは初めての経験に随分とぐったりしていた。
反対にタマキは楽しかったなぁなんて満足そうに笑っている。
少しの休憩を挟んでから、カゲミツはまたマップとにらめっこをしていた。
ジェットコースターはもうこりごりだ。その他絶叫マシンもまた然り。
視線をうろうろとさせていたカゲミツに、あるものが目に入った。

「お化け屋敷なんて久し振りだな」

二人が次にやってきたのはお化け屋敷だった。
お化け屋敷だったらなんだかいい感じになれる、かもしれない。
そんな都合のいい妄想を抱きながらカゲミツは足を踏み入れた。
タマキはしっかりとした足取りで、怖がっている様子は見受けられない。
ドアを開いて中に入ると、ガタンと大きな音が出て揺れた部屋にタマキが小さく声を上げた。
カゲミツは勇気を出して、黙ったままタマキの手の平を軽く握った。
さっきタマキがしてくれたようにさりげなく。
すると握った指先に握り返されるように力を込められた。
暗闇でタマキの表情は見えないが、これはかなりいい感じではないだろうか。
どっどっと鼓動が早まる。自分の顔は多分真っ赤になっていることだろう。
その後何度か驚かされるような箇所はあったけど、タマキと手を繋いでいるカゲミツはそれどころではなかった。
二人だんまりを決めたまま歩いていると、先に明るい光が見えた。
サッと離れていく温かさに少し寂しさを覚えながら出口へと向かった。

「カゲミツって意外と怖がりなんだな」
「・・・へ?」
「だから手を握ったんだろ?」

驚いた顔のカゲミツにタマキが不思議そうに顔を傾げながら言った。
自分の精一杯の勇気は怖かったからだと思われてしまったのだ。
夜はロマンチックに観覧車でもと考えたプランがガラガラと音を立てて崩れる。
そこで好きだからとへたれなカゲミツが言える訳もなく、とりあえずは頷いて会話は終わってしまった。
いつかカゲミツの気持ちがタマキに伝わる日は来るのだろうか。
こっそりと溜め息を吐き出しながら、二人は次のアトラクションへと向かい歩き始めたのだった。

君は総天然色
(でもそんなところも愛おしい!)

ついった診断メーカーより
カゲタマへのお題は『「さりげなく、手のひらを軽く握る」キーワードは「勇気」』

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