す き な ひ と

ある日のミーティングルーム。
キヨタカが来るまでは各自が自由な時間を過ごしている。
カゲミツはソファーに座りパソコンとにらめっこ。
ナオユキとユウト、カナエとアラタはそれぞれ談笑中だ。
タマキはデスクに向かって何やら難しそうな顔をしている。
きっと、次の任務について確認でもしているのだろう。

突然アラタがカナエから離れ、タマキの背中に抱きついた。
驚いて振り返るタマキににっこりと笑いかけるアラタ。

「タマキちゃんは今すきなひとはいないの?」
「えっ!!!!」

突然の直球過ぎる質問にタマキは言葉を失っている。

「お、お前なんてこと聞いてんだ!」

丁度一息つこうとパソコンから顔をあげたカゲミツがその言葉を聞いて真っ赤になっている。

「だってカゲミツ君も気になるでしょ?」

ふふっと小悪魔な笑みを浮かべ下からカゲミツを見上げる。
図星を指され、違う、それは、と一人でパニックに陥っている。
二人の騒がしい声につられてカナエやナオユキも話に入ってきた。

「今ね、タマキちゃんにすきなひとがいるか聞いてたんだ」
「そうなんだ、僕も気になるな」

アラタが説明するとカナエも控え目に話に便乗してきた。
以前カゲミツがカナエも同じタイプの人間だと言っていたけどどうやら当たっているらしい。

これはだんだんと面白くなってきたぞ。
うなだれるカゲミツを横目にヒカルはにやりと唇を歪めた。

「で、結局どうなんだよ?」

話がそれそうになっていたので軌道修正をする。
カゲミツのためにも、ちゃんと聞いておいてやらないと。

タマキはまさかもう一度話を振ってこられると思っていなかったらしく、口をぱくぱくとさせている。
こんな面白い話、ここで終わらせる訳にはいかない。
アラタ、カナエ、ヒカルと三人からどうなんだといわれ、ついに口を開きそうになったところでミーティングルームの扉が開いた。

「騒がしいな、何かあったのか?」

DVDを片手にキヨタカがミーティングルームに入って来た。
タマキはこれでこの話が終わると思ったのかほっと息をついている。

「タマキのすきなやつがいるかどうか話してたんだよ」

きっと、キヨタカならこの話に乗ってくる。
そう思ってヒカルはキヨタカに今の状況を説明した。
どんな反応するか、楽しみに待っているとキヨタカは当然のように言ってのけたのだ。

「そんなの俺に決まっているだろう」
「ええええええ!」

タマキ以外の全員が見事に重なる。
タマキは顔を真っ赤にしてキヨタカを見ている。

「そんな訳ないだろ、クソ眼鏡!」

先ほどからうなだれていたカゲミツが即座に噛み付く。
自分の思いを知っていながらそんなことをいうキヨタカに苛立ったのだろう。
ヒカルもまさかそんな言葉が返ってくるとは思わずまばたきを繰り返している。
ナオユキとユウトは顔を見合わせ、カナエは困ったように微笑んでいる。
この話題を持ち出した張本人のアラタもさすがに驚いた顔をしている。

「この俺を好きにならない奴なんて、いないだろう?」

なぁ?と言ってヒカルを見る。
どこまでも自信満々なキヨタカに全員が言葉を失う。
その羨ましい程の自信はどこから湧いてくるのだろう。

「隊長、どうしてそんなこと言い切れるんですか?」

先ほどから困った表情のままカナエが質問した。

「ミーティング中、俺を見つめる視線が熱っぽい」
「タマキはお前と違って真面目なんだからそんな訳ないだろ!」
「じゃあタマキに直接聞いてみようじゃないか」

キヨタカはにこりと微笑んでタマキを見た。
カゲミツはそんなことないよな?と心配そうな表情でタマキの腕を掴んでいる。
全員からの視線を一気に浴びてタマキは耳まで真っ赤になっていた。

「俺のことがすきなんだろう?」
「―――ッ!!」

極上の笑みを向けられて、タマキは知らないとミーティングルームを出て行ってしまった。
それはキヨタカの言葉を肯定しているも同然でカゲミツはぐったりとその場に座り込んでしまった。
なんであんな奴・・・と呟くカゲミツに掛ける言葉が見つからない。

「大変なことになっちゃったね」

この事件の発端のアラタがヒカルに向かって小さな声で話しかける。
ヒカルはまさかの展開にああとしか答えられない。

「別にだからチャンスがなくなった訳じゃないですよね?」

カナエは唯一明るくキヨタカを見た。
まぁそうだなと笑うキヨタカとの間に火花が散ったは気のせいだろうか。

「とりあえず、仕事の話をしよう」

しかしその前にタマキを迎えに行かないとな、と言ってキヨタカは部屋を出て行ってしまった。
先ほどよりも更に顔を真っ赤にしたタマキと楽しそうに笑うキヨタカが帰ってくるのはそれから10分後の話。

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