その日の仕事終わり、タマキはキヨタカ、アラタという珍しい組み合わせでミーティングルームを後にした。
さっきとは打って変わって楽しそうなアラタを不思議に思いつつも、悪いことではないので特に気にせずにキヨタカの家までの道のりを歩く。
途中、夕食の買い出しのために三人でスーパーに寄った。
周りから見たら仲のよい兄弟に見えるかもしれない。
少なくともタマキを巡り火花を散らしているようには見えないだろう。
慣れた手つきで食材を確認してからカゴに入れていくキヨタカの横顔を眺める。
じっくりと見ている様子はカッコイイなとタマキが見とれていると、グイグイと腕を引かれた。

「隊長が野菜を選んでる間にお菓子見に行こうよ」

ね?と小首を傾げるアラタに、どうしようかと視線を移す。
するとキヨタカがピーマンに目を向けたまま口を挟んだ。

「あんまり見つめられてると俺も照れるからな」

だから行って来いと言われてタマキは顔を真っ赤にしている。
アラタに引きずられるようにしてお菓子売場に向かった。

買い物を終えた三人はキヨタカの家に向かい、夕食はヨタカがササッと作った。
いつものようにキヨタカと向かい合う座ったタマキ、その隣にアラタが座る。
いただきます、と手を合わせてから食事を口に運んだ。

「隊長って料理も上手なんだ!」
「俺は完璧な男だからな」
「それを言わなきゃ完璧なのになぁー」

目の前で繰り広げられる軽口にタマキはただ苦笑するしかない。
アラタがふいに目の前にあるウィンナーをフォークに刺した。

「タマキちゃん、食べさせてあげる」

ニコッと笑ってフォークをタマキの口元に近付けた。

「アラタの分がなくなるだろ?」
「僕の分はタマキちゃんのをちょうだい」

ほらほらと押し込まれてタマキは仕方なくウィンナーを頬張る。
パキッと音の後、もぐもぐと口を動かす。

「タマキちゃん、僕にも!」

あーんと口を開けてまっているアラタに、タマキがフォークに刺したウィンナーを食べさせる。
子供っぽい笑顔でおいしーい、なんて言っている。
しかし目の前でそんなことをされて黙っているキヨタカではない。
椅子から少し腰を浮かし、肩に手を置いて顔をタマキの口元に近付けた。

「た、隊長・・・!」
「いい大人が米粒を口元につけていたからな」

唇すれすれのところに口付けられてタマキは顔を真っ赤にしている。
キヨタカはしてやったりの表情だ。
さっきまでの笑顔が瞬時に消えたアラタにニヤリと笑いかける。
大人気ないよと小さく呟いた言葉は、パニック状態のタマキの耳には届くことはなかった。

夕食の片付けはアラタとタマキが担当し、その間にキヨタカがお風呂の準備をする。
二人が並んで流し台に立つ姿にキヨタカがポツリと呟いた。

「まるで父親になった気分だな」
「タマキちゃんと僕が子供?」
「いや、タマキが嫁でアラタが子供だ」

しれっととんでもないことを口にしたキヨタカに、タマキが盛大に咳込む。
アラタはなんてことない顔でそれもいいかも、なんて言っている。

「タマキちゃん、一緒に入ろう?」
「風呂くらい一人で入れるだろ?」
「タマキちゃんと隊長を二人っきりには出来ないよ」
「俺は随分と信用されていないんだな」

ソファーでワインを飲んでいるキヨタカがそう言って笑った。
ねぇねぇとねだるアラタに、タマキがちらりとキヨタカに視線をやる。

「一緒に入れないほど狭くないだろ?」

キヨタカのその一言で二人はバスルームへと向かった。
タマキがアラタの髪を洗い、アラタがタマキの髪を洗う。
次は体というときにアラタが口を開いた。

「タマキちゃんの背中流してあげるね」

泡立てたスポンジがタマキの背中を滑る。
しばらくは背中から腰の間を移動していた手が、突然前の方に回ってきた。
タマキの胸の辺りをスポンジがするりとすべる。

「そ、そこは自分で洗える!」
「えー、せっかくだから全身僕が綺麗にしてあげるよ」

タマキが止めようとしたその時、バスルームのドアが開いた。

「俺の背中も流して欲しいんだが」

タオルを腰に巻いたキヨタカがニッコリとした笑顔で二人を見つめている。
助かったと思うタマキと、つまらなさそうにするアラタ。
しかし三人はさすがにきついのでタマキが体を洗い先にバスルームを出た。

「少しくらいいたずらしてもいいじゃん」

二人で並んで入るバスタブ。
アラタがぷーっと頬を膨らませた。

「あれはフェアじゃないだろ」

しかし返すキヨタカは平然と答える。

「俺から奪いたければ、タマキを振り向かせる男になれ」
「そんなこと言ったら、ほんとに振り向かせちゃうよ?」
「あぁ、受けて立とう」

そう言うとキヨタカが立ち上がった。
アラタもそれに続きバスタブから出る。

歯を磨いたりいろいろしてから、三人でベッドルームに向かった。

「男三人も一緒に寝れるの?」

明らかに邪魔そうな顔をするアラタにキヨタカが笑って頷く。
二人がタマキを挟む形でベッドに並んだ。

「タマキちゃん、手繋いで」

もぞもぞと差し出されたアラタの手に、タマキが苦笑いしながら重ねる。

「おやすみ」

その言葉を合図にキヨタカが部屋の明かりを消した。

翌朝アラタが目を覚ますと、手は繋いだまま、だけどキヨタカに寄り添うように眠っているタマキがいた。
キヨタカもそんなタマキを包むように腕を回して眠っていて。
大人のプライド、子供の特権

「僕も早く大人になりたいなぁ」

ポツリと呟いて、もう一度ベッドに横になった。

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