「今日はタマキちゃんのおうちにお泊りしたいな」

それは休憩中のミーティングルーム。
無邪気な笑顔を向けられてタマキが困ったように微笑んだ。

「今日はちょっと・・・」

無意識の内にチラリとキヨタカに目をやる。
今日はキヨタカの家に泊まりに行く約束をしているのだ。
しかし仲間には秘密にしているため、曖昧なままこのお願いを終わらせたい。
タマキがどう答えようかと考えていると、アラタが子供っぽく笑った。

「隊長のおうちはいつも行ってるでしょ?」

少し見上げてくる顔は愛らしい。
しかし口にした言葉はタマキを驚かせるには十分過ぎた。
なんで、と言い掛けた口を急いでつぐむ。
言ってしまえば肯定と一緒だ。
先程以上に頭を回転させるタマキにアラタがクスクスと笑う。

「気付いてないと思ってたの?」
「・・・え?」
「ナオユキ君やユウト君はわからないけど、みんな気付いるよ」

内緒話をするようにアラタが背伸びしてタマキの耳元で囁く。
その瞬間、じんわりと赤くなったタマキにアラタがまたクスリと笑う。

「だから今日は僕がお泊りに行ってもいいでしょ?」

子供が駄々をこねるみたいに両腕でタマキの腕を引っ張る。
みんなに気付かれていることの驚きにタマキが何も答えられずにいるとき、助け船が入った。

「なら二人とも俺の家に来ればいいだろう」

落ち着いた声の方を振り向くとキヨタカがニヤリとした表情で立っていた。

「た、隊長!」
「隊長ばっかりタマキちゃん独り占めしてズルイんだもん」

慌てるタマキとぷーっと頬を膨らませるアラタ。
しかしキヨタカは動じることなく話を続ける。

「アラタはタマキと泊まりたいんだろ?」

諭すような言い方にアラタは頬を膨らませたまま頷く。

「タマキは俺の家に泊まりたい、そうだな?」

間違ってはいない、けれどはっきり口に出されると恥ずかしい。
モジモジとどう答えるか迷っていると、キヨタカが腕を組んだ。

「違うかったか?」
「・・・泊まりたい、です」

結局ははっきりと言わされてタマキが頬を赤く染める。
アラタは面白くない顔をしているが、キヨタカは腕をといてポンと二人の肩を叩いた。

「なら二人でうちに来たらいいじゃないか」

勝ち誇ったように笑うキヨタカにさすがのアラタも何も言うことが出来ない。
決定だなというキヨタカの一言に困惑しながらもタマキは自分のデスクに戻った。
それを見届けてからキヨタカはアラタにそっと近付いた。

「今夜は楽しくなりそうだな」

その声は本当にそう思っているようで、アラタはすぐ近くにあるキヨタカの顔を見上げた。
声とは裏腹に挑発的な笑顔を浮かべたキヨタカに、アラタも同じくニッコリと笑顔で返した。

大人の余裕、子供の無邪気さ
(今夜はいざ勝負!)

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