それはとある任務の夜。
海の上まではさすがに後方支援が出来ないと乗り込んだ船の上のことだった。
見覚えのある顔にカゲミツがチッと舌打ちして部屋の隅に隠れる。
下品に笑う中に聞こえたアイツの名前に虫酸が走る。

「なんでアイツがあんな目に・・・」

小さく呟いてぎゅっと拳を握り締めた。
タマキが心配そうに声を掛けてきたけれど曖昧に応える。
過去の記憶が、嫌でも甦ってきてしまう。

「ちょっと巡回してくる」

外の空気を吸って少しスッキリしよう。
そう思って歩き始めた、その時だった。


「カゲミツ?」

聞き覚えのある声が自分の名前を呼んだ。
まさか、そんな訳がない。
それでももしかしたらと少しの期待を込めて声のした方を振り返った。

「やっぱりカゲミツだ」

ふわりと笑った姿は記憶の中よりも大人になっていて。
きょとんとしたカゲミツの顔を手を振って覗き込む。

「もしかして、覚えてなかった?」

覚えてない訳、なんてない。
さっきも最後に見た切なげな顔を思い出していたところだ。
聞きたいことはいっぱいある。
けれど上手く声にならない。

「ねぇ、カゲミツ、」
「オミ・・・」
「覚えててくれたんだ」

絞り出したような声には気にせずオミは綺麗に微笑む。
ここだと落ち着かないからと腕を掴まれた。
今は任務中だけどそれよりもいろいろ聞きたい気持ちが勝ってしまった。
オミに掴まれた腕を振り払うことなく、引かれるままに客室に入った。

「今までどこで何してたんだ」

部屋に入るなり堰を切ったように話し掛けるとオミはニコリと微笑んだ。

「久し振りの再会なんだから、もっとゆっくり話がしたかったんだけどな」

そう告げてカゲミツを壁際に押しやった。
間近で見たオミは記憶の中よりも背が高くなっていた。

「何、するんだ・・・」

オミは何も答えずにカゲミツの顎を手で固定し、顔を近付けた。
カゲミツがぎゅっと目を閉じていると、柔らかいものが唇に触れた。
驚いて目を見開くと焦点が合わないほど近くにオミの顔が見える。

「カゲミツがあんまりうるさいからね」

黙らせたくなっちゃったと色気のある声で囁いた。
ぞくりと背中に何かが走った。
何とかオミから逃れようとしても、逃げる場所なんてない。
小さく息を詰めたカゲミツにオミがクスリと笑ってまた唇を重ねた。
今度は重ねるだけではなく、薄く開いた隙間から舌を捩込んできた。
追い出そうと舌を動かしてみたら、舌を絡められてしまった。

「んっ、ふ」

鼻から抜ける声が恥ずかしい。
最初は抵抗しようとしていたけれど、今は縋り付くような格好になってしまっている。
一瞬顔が離れたと思っても可愛いね、なんて囁いてまた唇を重ねられる。
執拗なまでに繰り返されるキスにそろそろ息が苦しくなってやっとオミが離れた。
カゲミツは壁際でへろへろと腰を抜かしている。

「何、するんだ」
「カゲミツがうるさかったから黙らせただけだよ」

悪びれた様子もなくオミは笑う。
ちらりと時計に目をやってもう一度カゲミツの方を見た。

「そろそろ時間だ、行かなくちゃ」
「待てよ、オミ!」

まだ全然聞きたいことも聞けていない。
このまま別れたらまた前と同じだ。
咄嗟に伸ばした手をするりと避けてオミは歩き出していた。
しかしドアの前でくるりと振り返る。

「ツナギも悪くないけど、やっぱりそういう格好の方が似合うね」

それだけ告げてじゃあねと出て行ったオミをカゲミツは唖然と見送る。
普段の格好を知っているような口ぶり。
一体アイツはどこで何をやっているんだ?
その謎は後ほど二度目の再会を果たしたときにわかることになるなんて、今のカゲミツに知る由もなかった。

再会は船上で

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