「きらい、だった。」 顔を逸らしたままタマキはポツリとこぼした。 どういう意味なのか問いたいけれど、二人の間に流れる沈黙が重い。 「隊長のその声がきらい、でした」 「・・・そうか」 またプツリと会話が途切れてしまう。 思わず口をついて出た思いに対して嫌いだと言われたのだから仕方ないだろう。 目線を落としたままのタマキの横顔をちらりと盗み見る。 このまま二人で黙り込んでいても埒があかない。 キヨタカが重い口を開いた。 「今日は突然すまなかった」 「・・・・・・」 「夜も遅いし、タクシーを呼ぼう」 立ち上がり携帯を取り出すためにポケットにやった手をタマキが掴んだ。 「もう少し、待ってもらえませんか?」 ぎゅっと縋るように掴まれて、キヨタカは携帯をポケットに戻した。 タマキの考えがわからずに困惑する。 さっきより少し距離を空けてソファーに座り直した。 「隊長はいつも、別れ際に俺の名前を呼びますよね」 「・・・そう、だな」 「俺はその声がとても苦手でした」 ずっと耳から離れずに心を掻き乱すその低い声。 思い出している内にドキドキしてきて、また聞きたいと思ってしまう、そんか声。 それがどういうことか気付かないほどタマキは子供ではなかった。 そしてそれが抱いてはいけない感情だということにも知っていた。 だから必死に蓋を閉じて押し込めてきたのに、たった一言名前を呼ばれるだけでそれは簡単に開いてしまう。 「だからきらい、だったんです」 膝の上でぎゅっとこぶしを作るタマキの耳は赤い。 きらいだったと言われたモヤモヤがゆっくりと晴れていくようだ。 「タマキ」 「はい」 きらいだというその声で名前を呼ぶと、伏し目がちに顔を上げた。 「つまりどういうことか、教えてくれないか?」 「つまりは俺も、隊長のことが・・・」 ついに落ちた声 (すきです) |