「カゲミツって本当貧弱だな」

無邪気な笑顔とは裏腹に。
みんなで腕相撲をしていて唯一全敗のカゲミツにタマキのキツイ一言が飛んだ。
カゲミツは実行部隊と違い裏方の仕事だ。
実行部隊の仲間より筋力が劣るのは仕方ないと思っていた。
しかし同じく諜報班のヒカルが予想以上に善戦し、全員に一瞬で負けてしまったカゲミツの弱さが引き立ってしまっていたのだ。

「筋肉とかねぇもんなぁ」

タマキに言われた言葉がショックで、放心状態のカゲミツの腕をヒカルが引っ張る。
白くて細い。女性ならば完璧。けれど20代の男としては少々マズイ。

「タマキが押し倒せそうだもんなぁ」

二人の体格を交互に見比べたトキオがポツリと呟く。
身長はカゲミツが少し大きいものの、筋力となると話は別だ。
タマキも細くない訳ではない。
しかしそれはカゲミツとは違い、筋肉があり無駄な肉がついていないからだ。
しみじみと呟いたトキオの言葉に、カゲミツがハッと我に返ったところでキヨタカがミーティングルームに入ってきた。

「今日は特に何もないから解散だ」

キヨタカの言葉にみんな一斉に帰り支度を始める。

「カゲミツ、帰るぞ」

いつものようにタマキがカゲミツに声を掛ける。
一緒に住んでいるのに仲のいいことだと最初は言われたが、今では日常の光景となっていた。
そしてカゲミツはいつまで経ってもとても幸せそうに頷き二人で帰る。
だからカゲミツが発した言葉には全員が耳を疑った。

「今日はちょっと寄るところがある」

視線を斜め下に落とし、言いづらそうにしている。
カゲミツに限ってやましいことはないと思うけれど、寄り道するときは前もってどこへ行くかと伝えられていたので驚きが隠せない。
仲間達がヒソヒソと会話をしているが、それすら耳に入らない。

「そうなのか、なるべく早く帰るんだぞ」

それだけ告げてタマキは足早に出て行ってしまった。

「どこに行くんだよ?」
「ちょっとな」
「俺達にも言えないようなとこー?」

ニヤニヤしながら尋ねるヒカルにも適当に返す。
続けてトキオがふざけた調子で尋ねた言葉はあっさりと流されてしまった。

「じゃあ、お先に」

なんだか切羽詰まったような表情で出て行ったカゲミツをぼんやりと見送った。

*

「カゲミツ君、こんなところでどうしたの!?」
「ナオユキ達が通ってるジムってここだったのか」

驚いたように名前を呼ばれ、カゲミツが気まずそうに顔を上げた。
用事があると出掛けた先はとあるスポーツジム。
タマキに貧弱だと言われたのが相当ショックだったのだ。
これからこっそり筋トレして仲間を見返してやろうと思ったその日にバレてしまうなんて。

「・・・タマキに貧弱だっ思われたままじゃ嫌なんだ」
「そっか、じゃあ一緒にトレーニングしよう!」

ナオユキ達に誰にも言わない約束を取り付け、一緒にトレーニングを開始した。
のだがいつも鍛えているナオユキ達にカゲミツがついていくなんて無理な話だ。
開始早々にカゲミツがギブアップしてしまった。
普段体を動かさない人間が急に体を動かすことに無理があった。
起き上がれないカゲミツにナオユキとユウトが仕方なく携帯を取り出した。

*

「いきなりジムなんか行って、どうしたんだよ」

歩き辛そうなカゲミツを支えながらタマキが尋ねる。
ナオユキ達が電話したのは恋人であり同居人のタマキだった。
カゲミツがジムで動けなくなったと連絡を受けて急いで駆け付けたのだ。
仲間、特にタマキには知られたくなかったけれど仕方ない。
カゲミツはボソボソと答えた。

「タマキは貧弱な男なんて嫌だろ?」

ふて腐れたようにカゲミツの口から出た言葉にタマキが吹き出した。

「何がおかしいんだよ」
「それでジムに行こうと思ったのか?」

コクンと頷いたカゲミツが愛しい。
だから支え直すフリをして口を耳元に近付けた。

「俺はどんなカゲミツも好きだから」

今のままの君が好き
(でも一度押し倒してみたいと思ったのは、秘密にしておこう)

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