帰ろうと立ち上がった肩にポンと手が置かれたと同時に名前を呼ばれて振り返った。
くるり、声の方を向くとキヨタカが微笑んで手をクイクイと動かす。

「今夜一緒にどうだ?」

もちろん俺の奢りだと上司に言われて、断れる訳もなくバンプアップで二人肩を並べている。
最近任務のことからマスターを交えて談笑をしたり。
楽しくない訳ではないけれど、タマキはどこか居心地の悪さを感じていた。
仕事となれば頼れる隊長だ、その心に偽りはない。
しかしプライベートにキヨタカと時間を共に過ごすのはなぜかどことなく苦手だと感じていた。
マスターとキヨタカの軽口の応酬に愛想笑いで見守る。

「お前は昔から変わらないな」
「あなたに言われたくないですよ」

普段俺様な態度なキヨタカのこんな話し方は何度見ても慣れない。
初めて見たときは今までのイメージが覆ったとすら思ったものだ。

「なぁ?タマキ」
「え、あ、ハイ」

そんなことをぼんやりと考えていると、突然話を振られて驚いてしまった。
キヨタカもマスターまでもがクスクスと笑っている。

「こんな話聞いてても面白くなかったな」
「いえ、そんなことは・・・」
「いや、悪かったな」

キヨタカはそう言って手で頭をポンポンと撫でた。
その手の平の大きさになぜか顔が熱くなってしまう。

「酔ったのか?」
「そうかもしれません」
「俺も少し酔ったみたいだ」

そろそろ帰ろうか。
そんな気配は感じさせないけれど、キヨタカは立ち上がった。
二人分のお会計を済ませ、先に店を出るようにと促す。

「いつもありがとうございます」
「俺こそいつも付き合わせて悪いな」

大通りに出るまでの短い道のりでそんな会話を交わす。
社交辞令でまた誘って下さいと言うべきなのか、でもそれはまた奢って下さいと言ってるみたいだしな。
タマキがぐるぐると考えている間に大通りに到着してしまった。

「今日は楽しかった。また一緒に行ってくれるか?」
「もちろんです」

キヨタカはそうかと微笑んでタクシーを拾う。
車が発車するまで見送ろうとタマキが立っていると、キヨタカの声が聞こえた。

「タマキ・・・」

酷く甘く、心臓がどきりと跳ねる声だ。
言葉も出せずにキヨタカに目を向けるけれど、ただおやすみとだけ告げてドアが閉まってしまった。
車が去ったのを見て、ゆるゆると手を頬に当てる。
熱を持った頬を感じて、だからキヨタカと飲みに行くのは苦手なんだと呟いた。

囁かれた名前

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