自分は恋人だというのに、どうして今まで気付かなかったのだろうか。
少し寄せた眉、額に微かに浮かんだ汗を見て情けない気持ちが込み上げてくる。

「隊長、」
「どうした?」

言葉を紡ごうとしたタマキを黙らせるようにキヨタカが口を開いた。
チラリと見遣ってもキヨタカは何のことだと言わんばかりの表情で。
タマキは何も言えず、仲間の待つワゴン車へと乗り込んだ。

今日の任務は小規模マフィアの制圧だった。
深夜、シンジュクのはずれにある廃ビルに息を潜めて忍び込む。
その中には普段戦闘に参加しないキヨタカの姿もあった。

「隊長が任務に参加するなんて、珍しいですね」
「たまには実戦に参加しないと感覚が鈍るからな」

銃を構え直して扉の向こうを探るキヨタカの横顔を眺める。
いつもはアラタとトキオと組んでいるが、今日はキヨタカと二人だ。
いつもとは違う真剣な表情に、内心どきどきとしてしまう。

『その部屋に敵がいるみたいだ』

カゲミツからの情報を聞いて視線が重なる。
同じタイミングで頷いたのを合図に、二人で扉を蹴破った。
マフィア達が弾かれたように立ち上がり、こちらに向かって銃を撃ってくる。
それらを上手くかわしながらタマキが反撃しようと構えたとき、大きな銃声が聞こえた。
タマキも目の前のマフィア達もその音に驚き動きを止める。
引き攣った顔のボスらしき男の横の壁には穴が空き、煙が上がっていた。

「下手な真似をすると、次は外さないぞ」

余裕たっぷりな顔でまっすぐと長い腕を伸ばし、ボスの額に照準を合わせる。
両手を上げて、反抗する気もないようだ。
今回の任務も無事成功だ、タマキがそう安堵し銃を下ろそうとしたときキヨタカが急に体の向きを変えた。
乾いた音が響き、下っ端であろうマフィアが手を抑えている。

「余計な死者は出したくないんだが、」

キヨタカはそう言うとボスに向き直った。
青い顔をして、ブルブルと震え上がっている。
タマキは手を抑えている部下の方を見た。
床に落ちているのはモンスターの衝撃によって粉々に砕けた銃で。
絶対に外さない男という噂に偽りがないことを物語っていた。

しばらくして他の部隊の者がマフィアを連行していった。
キヨタカは携帯を耳に当て、先ほどからずっと電話でいろいと指示を出している。
そんなとき、キヨタカの様子がおかしなことに気付いたのだった。

ミーティングルームに帰り、軽く今日の反省をして解散となった。
キヨタカは久々に汗をかいたとそそくさとシャワー室に入ってしまった。
問い質したいのに、その隙を全く作ってくれない。
タマキがムスッとした顔でソファーに座っていると、見兼ねたヒカルが声を掛けてきた。

「アイツ、今日何発が撃っただろ?」
「あぁ」
「アイツが使ってる銃は威力もデカイが反動もデカイ、勿論知ってるよな?」
「勿論だ」
「見栄張ってあんな銃使ってるけどさ、案外体に響いてんだぜ」

それも見せないように見栄張ってるけどな。
そう付け加えたヒカルの言葉がすとんとタマキの中に落ちた。
無理をしているのだ。
じゃあなとヒカルが出て行ったドアが閉まる音を聞いて、タマキは立ち上がった。

シャワー室のドアを開くと、キヨタカはタオルで髪を拭いている最中だった。

「タマキか、一緒に入りたいのか?」

わざとらしくニヤリと笑う顔に構わず、ぎゅっと指を握った。
真剣な表情のタマキに、キヨタカも何事だと笑うのをやめる。

「痛いなら、痛いって言って下さい・・・」

一緒何のことだと不思議そうな表情を浮かべたが、すぐにキヨタカは何のことだか理解したようだ。

「ヒカルに変なことを吹き込まれたのか?」

顔を覗き込まれて思わず目を逸らしてしまった。
けれど、ちゃんと伝えなければならない。

「俺にも、心配させて下さい」

ヒカルが知っているのに自分は知らないなんて、少し、寂しいです。
目を逸らしたまま言うとキヨタカはポンポンと頭を撫でた。

「悪かったな」
「いえ・・・今まで気付かなかった自分も恥ずかしいです」

俯いてしまったタマキの肩をキヨタカがそっと置いた。

「気付かれないようにしてたからな

苦笑いをしてみせてもタマキの表情は浮かない。
だから優しく背中を押して部屋に入るように促す。

「バレてしまったんならひとつ頼み事があるんだが」
「何ですか?」
「今日はあまり体が動かない、だからサポートしてくれないか?」

ふわりと微笑んだキヨタカにタマキも表情を柔らかくした。

「今日は俺が食事を作ります」
「あぁ、そうしてくれると助かるな」

キヨタカがそう答えるとタマキが嬉しそうに微笑んだ。
服も着替え、ミーティングルームを出ようというときにタマキが口を開いた。

「隊長、待ってください」
「なんだ?」

前を歩いていたキヨタカが振り返り、タマキは痛むであろう腕にコツンとおでこを当てた。

「いたいのいたいの、とんでいけ!」

不思議そうな顔のキヨタカにおまじないですとタマキが微笑む。
少し前までのムスッとした表情はどこへやら。
もう片方の腕に絡み付いて、ミーティングルームを後にした。

いたいのいたいの、とんでいけ!

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