「・・・俺ってギャップないか?」

ソファーに座って、さて栄養でもとゼリーを口に含んだときだった。
真剣な表情で書類を書いているタマキの正面に座り、決意を込めて言葉に思わずむせてしまった。

「コラ、汚いだろ」

それとも俺に綺麗にして欲しいのか?とさり気なくセクハラ発言してくる眼鏡に一発食らわして大きく息を吸い込んだ。

(本人に聞いてどうするんだー!!)

叫びそうになった心の声をグッと堪える。
キョトンとしたタマキに、カゲミツの顔がどんどんと不安に染まっていく。
確かに数日前ギャップにクラっとするかも、とは言ったけれど。
それはさりげなくアピールしろと意味であって、本人に直接聞けという意味ではない。
し、手渡した雑誌にもそんなことは書いていなかったはずだ。
いい人止まりで終わらない方法と書いてあったはずなのに、今のカゲミツはまさにその典型のように見えた。
(全然学習出来てねぇ!)
あまり顔に出さないようにと心掛けてこっそり息を吐き出した。
普段は冷静で聡いのに、タマキのことになると途端に冷静さをどこかへやってしまう。
長年隣で見てきた者としては可愛らしいものだけど、ここまでとは思っていなかった。
落ち着くためにブラックのコーヒーを流し込んで耳を澄ました。

「どうしたんだ、いきなり」
「え、や、どうしたとか何もねぇんだけどちょっと気になって・・・」

タマキの言葉に動転したのかカゲミツがしどろもどろになりながら答える。
しかし気にならないのか気付いてないのか、タマキはそうかと納得したようだった。

「カゲミツはギャップだらけだと思うぞ?」
「マジか!?」
「ああ、初対面の印象と今では正反対なくらいだ」

感じの悪い奴だと思ってたのに、中身はこんないい奴だしなとタマキが笑って付け加えた。

「じゃあドキッとするか・・・?」
「え・・・・・・?」

意外といい感じだ、そう思っていたのにその雰囲気をぶち壊したのは誰でもないカゲミツ本人だった。
タマキは目を丸くしてしまっている。
ヒカルもさすがにため息を抑えられずに目を覆った。
(普段笑顔を向けられるだけで照れまくるくせに、どうしてこういうことは臆面なく聞けるんだ!)
カゲミツの表情は至って真剣だ。
もはや告白同然、とりあえず今日は一緒に酒でも飲もうかとヒカルが考えていると、意外な言葉が聞こえた。

「・・・・・・した」
「え・・・?」
「カゲミツのギャップにドキッてしてた」

っていうか今もしてる。
耳を澄ましていないと聞こえないくらい小さな声だったけれどはっきりと聞こえた。
一瞬の間を置いて意味を理解したカゲミツの顔が真っ赤に染まっている。

(それってつまり・・・)

驚きと期待を込め目を向けると、カゲミツ同様顔を真っ赤にしたタマキがいた。
(酒を飲むのは、また後日だな)
それはもちろんさっきとは違う意味で。

カゲミツの暴走には驚いたけど、結果良ければすべてよしだ。
こっそりと手を重ね合っている二人に気付かないフリをして、手に握りっぱなしだったゼリーをもう一度口に含んだ。

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