いい人止まり

ペラペラと適当にページをめくっていた手をふと止めた。
とりあえず退屈しのぎにと思っていたけど、思いの外興味のそそられる文字が目に入った。

「いい人止まりの特徴、ねぇ」

思い浮かんだのは見てるこっちが恥ずかしいくらいに片想い真っ只中な自分の相棒。
まさにいい奴なんだけど、周りのライバル達と比べると経験の差のせいか少し押しが弱い。
カゲミツのためにと文字を追っていると、なるほどと思うものがあった。



「ということで買ってきてやったぞ」

コンビニの袋から差し出されたソレにカゲミツはパチパチと目を瞬かせた。
もちろん代金はもらうぞという声は多分聞こえていない。
そりゃそうだろう。いきなり何の説明もなしに雑誌を渡されたんだから。
意味が分からずに怪訝な顔をするカゲミツから本を奪う。

「タマキのことが好きだろ?」
「なんだよ、いきなり」
「タマキと付き合たいって思わねぇ?」
「そ、そりゃ思うに決まってんだろ・・・」

だんだん小さくなった語尾にカゲミツの顔を覗くと、耳まで真っ赤になって照れていた。
何を想像しているのか目を伏せて口元を押さえている。
そんなカゲミツを現実に引き戻すべく肩を叩いて、雑誌のページを開いて見せた。

「今のお前はまさにこういう状態だ」
「いい人、止まり・・・?」
ポカンと口を開けたままのカゲミツに指を差して示す。

「お前にはギャップが足りないんだよ」
「ギャップ?」
「人は誰でも思いがけない一面にクラッとするもんだろ」

怪訝な顔で首を傾げたカゲミツにわざわざ説明してやっても理解はしていないようだ。
危機感を煽るためにあえてライバル視しているカナエの名前を出した。

「たとえばカナエとかいい例だろ」
「はぁ?なんでカナエが出てくるんだ?!」

思い描いた通りに噛み付いてきたカゲミツに指をつきつけて黙らせる。

「いつもはあんなポカンとしてるのに、いざ戦闘となれば表情が変わるだろ?」
「そうだな」
「タマキはそういうとこにクラッときてるかも、ってことだ」

お前にはそんな意外性あるか?ないだろ?
付け加えて緩く首を横に振る。
しかしいつまで経っても反論してこないことを不思議に思ってカゲミツを見た。
ワナワナと握り締めた拳が震えている。

「カゲミツ・・・?」
「タマキはカナエにクラッとしてるのか」

かも、いう自分に都合のいい部分がバッサリと抜け落ちているぞ。
カゲミツの不憫体質はこういうところから来るのかとヒカルは心の中で溜め息をつく。
目に見えてしょんぼりしてしまった相棒を我に返すべく、強めに肩を揺すった。

「人の話を聞け!」
「あぁ、悪い」
「だからお前もクラッとさせるようなギャップを見せてみろよ」

え、でも、と戸惑うカゲミツに奪いっぱなしだった雑誌をもう一度押し付けた。

「このままだといい人止まりだぞ?」

それでいいのかと念を押すと、小さく、でも力強く首を横に振った。

「だったら読め」
「おう、ありがとな」

小さく礼を述べて雑誌に全神経を集中させるカゲミツに、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
これでも相棒の恋を応援しているのだ。
そこに毎日のように繰り広げられる恋愛相談に疲れたとか、からかうのが楽しみとかいう気持ちが混じっていようとも、応援していることは紛れも無い真実だ。
今なら財布から代金を抜き取っても気付かないだろうなぁと思えるほど真剣に読む背中に、小さく頑張れよと囁いてパソコンに向かった。



数日後、雑誌を熟読し過ぎて変な方向に走ったカゲミツが、なぜかタマキと付き合うようになったのは別のお話。

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