最近、キヨタカには気になっていることがあった。

What's my name?

「カナエ、おいしいクロワッサンの店見付けたんだ!」
「カゲミツはよく頑張ってるよ」
「トキオって意外と凄いんだな」

「隊長は凄いです」

それは可愛い部下で恋人であるタマキのことだった。
自分以外の部隊の人間はみんな名前で呼ぶくせに、自分だけは職場を離れても隊長のままだ。
オフのときはもちろん名前で呼んでほしい。
しかし仕事中だって役職じゃなくて名前で呼んで欲しいと思っているのだ。
ヒカルやカゲミツのように呼び捨てにしろとは言わない。
でもトキオのように「キヨタカ隊長」と呼ぶくらいは出来るんじゃないだろうか?
今までこんな子供みたいなこと思ったことないのに。
意外と嫉妬深い少し自分に苦笑してデスクに戻った。
タマキには残務処理が残っていると伝えてあるので、もうすぐ来るはずだ。

「隊長、残務処理って何ですか?」

5分後おずおずと入って来たタマキをとりあえず座らせた。
今までの経験からかタマキは警戒した目をしている。

「今日は何もしないぞ」
「信じられません・・・」

警戒する姿が小動物のようで、つい食べてしまいたくなる。
が、今日はそんなことをする為に呼び出したのではない。
小さく咳ばらいをしてから、話を切り出した。

「いつも俺のことを隊長と呼ぶな」
「隊長は隊長ですから」
「オフの時はなしだと言っただろ?」
「でも・・・」

言い淀んだタマキに今は勤務時間外だと言おうとしてやめた。
それには触れず話を進める。

「でも俺以外の奴はみんな名前じゃないか」
「それは・・・でも隊長を名前でなんか呼べません」
「別にカゲミツやヒカルみたいに呼び捨てにしろとは言ってない」

そこだけは譲れないと語気を強めたタマキを窘める。
少し屈んで目線を合わせ、ゆっくりと優しく言葉を紡ぐ。

「ただ俺だけ役職呼びなのは」

寂しいだろ、その一言はやっぱり言えず口をつぐんだ。
目線を逸らして姿勢を戻す。
タマキはまだじっとこっちを見ている。
改めて考えると本当に子供みたいだ。
だけどそれでも譲れなくて、目を逸らしたまま口を開いた。

「だから隊長の前に名前を付けろ」

つい命令口調になってしまったのに、タマキはゆっくりと首を横に振った。

「呼べません」
「どうしてだ?」
「キヨタカって呼ぶのはオフだけって決めてるんです」

そう言って恥ずかしそうにはにかんだ。

「それにその方が特別な感じがしませんか?」

まさかタマキからそんなこと言われると思ってなくて面食らってしまった。
二人でいるときいくらでも呼べるじゃないですか、なんて付け加えられて。
恥ずかしそうにしながらではあるが、タマキも言うようになったものだ。
付き合い始めた頃からすると考えられない。
しかしいつまでも驚いてはいられない。

「これで残務処理は終わりだ」

意味ありげにニッコリと微笑むと、

「今日はキヨタカの家に行きたいです」

すぐに理解して上目遣いで見てくる恋人に気分を良くして、ミーティングルームを出た。

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