「タマキは可愛いな」

ふわりと笑って上司であり恋人でもあるキヨタカの大きな手が黒い髪を撫でた。
男なのに可愛いと言われても正直嬉しくはない。
むぅと頬を膨らませるとキヨタカが楽しそうに笑った。

「そんな顔をするな、可愛い顔が台なしだぞ」
「別に可愛くなんかありませんっ」

少し反抗心を見せてみたってキヨタカは焦るどころか柔らかく微笑むのだ。
これが"大人の余裕"なんだろうか。
俺だってもう酒を飲めるし、タバコだって吸える年齢なのに。
いつまで経っても子供のような扱いをするキヨタカに、今日は俺だって大人なんだというのを見せることにしたのだ。

タマキが風呂から上がると、キヨタカはパソコンと向かい合っていた。
髪を拭くのも程々にそっとキヨタカの背後に近付き、首に手を回した。

「キヨタカ、何してるの?」

努めて大人っぽく。
なかなか慣れない名前も頑張って呼び、仕事中みたいな敬語も取っ払った。
驚いて振り向いてくれることを期待したのに、返ってきたのはいつもの調子でどうしたという言葉だけだ。
少しがっかりしながらもここでくじけてはいけない。
キヨタカに自分も大人だと認めてもらわなければならないのだ。

「まだ仕事?」
「いや、調べたいことがあってな」

頑張って敬語をやめているのに気にする様子もない。
だからタマキは次の作戦に出ることにした。
耳にふっと息を吹き掛け、ちゅっと首筋にキスを落とす。
自分からは滅多にしない行動にキヨタカがようやく振り向いた。
残念ながら驚いた顔ではなくいやらしい笑みを浮かべていたけれど。

「今日はやけに積極的だな」

キヨタカの言葉に恥ずかしくなるのを必死で振り払う。
ここで顔を赤らめたら可愛いなと言われるのが目に見えている。
だから眼鏡を外して唇を塞いだ。
自分から舌を出してキヨタカの舌と絡める。
何度も重ねて、ゆっくりと唇を離すと銀の糸が二人を繋ぐのが見えてどきりとする。
それだけで十分身体は熱を持ったというのに、キヨタカはそれをぺロリと舐め取った。
赤い舌を挑発的に見せ付けて。

「どうした?もう終わりか?」

余裕な瞳がまだまだ子供だと言っているようで躍起になって噛み付くように唇を重ねる。
主導権を握っているが、正確には主導権を握らせてもらっているといった感じだ。
キヨタカの上に跨り、シャツを脱がせてもキヨタカの顔色は変わらない。
ぱさり、シャツが床に落ちる音を合図に首に思いっきり噛み付いた。
少し顰めた顔、くっきりと残った歯型にじんわりと満足感が広がる。
いつも痕を残したがるキヨタカの気持ちが少し分かった気がした。

「随分と乱暴だな」

ふーと息をついたキヨタカを無視して首に肩にと唇を落としていく。
噛んだところを舌でなぞると小さな呻き声が聞こえた。

「痛い?」
「まさか、そんな訳ないだろう」

強がりな恋人は決して頷こうとしない。
しかし普段は決して見れない姿にどうしようもなく煽られる。
胸元にキスを落としながら片手で中心に触れた。
感じてくれたのだろうか、少し膨らんだそこに笑みがこぼれる。

「今日は襲われてる気分だな」
「こういうのは嫌い、・・・・?」

ですかと続けそうになって慌てて口を閉じた。
ガチャガチャと片手でベルトを外そうとするがなかなか上手くいかない。
気付いてはいるが、あえてそこには触れずにキヨタカは話を続ける。

「たまに襲われるのも悪くないな」

スルリ、やっと抜けたベルトを投げてスラックスの前を寛げる。
思い出してみると、キヨタカを脱がせるなんて初めてかもしれない。
下着の上から優しく握ると、グッと硬度が増した。
今まで考えたこともなかったけど、この雰囲気なら出来るかもしれない。
刺激を与える手は緩めずに唇を耳元に寄せた。

「舐め、よっか?」

躊躇ったのは恥ずかしさがあったからだ。
きっと今、自分の顔は赤い。
そのまま顔を上げずにキヨタカの耳を舐めた。
くちゅくちゅとわざと音を立てながら。

「気持ちは嬉しいが無理しなくていいぞ」

頭を撫でる手がまた子供扱いされてるみたいでやる気に火がついた。
キヨタカの上からおりて屈もうとしたら、腰を抱き寄せられて足元がもつれる。

「ベッドに行くぞ」
「・・・はい」

立ち上がったキヨタカに引きずられるように移動し、ベッドに押し倒された。
慌てて起き上がろうとしても素早く覆いかぶさられ、身動きが取れない。

「俺だってキヨタカを気持ち良くしたい!」
「やっぱり襲われるのは合わないみたいでな」

そう言うなりパジャマのボタンを全部外された。
両手をベッドに縫い付けたまま、口だけで熱を高めてくる。

「あっ・・・だ、め」
「嘘をつくな、こんなにも感じているくせに」

レロレロと舌で刺激されてあっさりと甘い声を上げてしまう自分が情けない。
吸って噛んで舐めてと執拗に左側ばかり弄ばれてもどかしい。
刺激に身体をしならせて、右半身を押し出してみてもキヨタカは見向きもしてくれない。

「両方、さわって・・・」

堪らず声を上げるとようやく片手できゅっと摘まれた。
それだけで大きく反応してしまう自分が恥ずかしい。
解放された腕で顔を隠すと、キヨタカがダメだと掴む。

「さっきまであんなに攻めてたくせに」
「だって、絶対可愛いって言うじゃないですか」

力で敵う訳ないと分かっていても抵抗をやめられない。
もう大人だって証明したかったのに、これじゃいつもと同じだ。
やだやだと身体を捻っているとキヨタカがパッと手を離した。

「だから今日はやけに積極的だったのか」
「あっ・・・」

跨がったままキヨタカが上半身を折り、耳元に顔を近付ける。
その間も胸を愛撫する手は止まらないのだけど。

「今日のお前には正直驚いた」
「う、そっ・・・アァ、ン」

低く甘く心地好くて大好きな声が耳元でそっと囁く。
それだけで感じてしまうなんてどうかしてるけど、好きなんだから仕方ない。

「あんな風に誘ってくるなんて・・・我慢するのも大変だったんだぞ?」

胸を弄っていた手がつーっと脇腹をなぞりながら下着の中に潜り込んだ。
息が震える。

「名前で呼ばれてドキドキした」

キヨタカの声がじんわりと身体中に広がっていく。
それは媚薬みたいに蝕んで理性がどんどんとけていくみたいだ。

「今まで可愛いばかり言ってすまなかった」

最後の一言を聞いて、顔の前で組んだ手をおろした。
焦点を結べない程近くにキヨタカがいて、ゆっくりと目を閉じた。





「大丈夫か?」

あのあと気を失うまで何度も貫かれ、目を覚ましたときにはもう正午を過ぎていた。
ゆっくりと身体を抱き起こしてくれるキヨタカに手を伸ばしてキスをねだる。

「そんなことすると身体が持たないぞ」

心配そう顔に首を緩く振って答える。
散々喘いだせいで声が枯れてしまったのだ。

「そっちの意味じゃない」

その言葉に首を傾げると困ったように髪を梳かす。

「お前の身体だ」
「!」
「・・・冗談だ」

フッと笑われたのが悔しくて首に回した手を力いっぱい引き寄せた。

やるときはやるんです
(俺だって!)

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