アドバイス
「なぁタマキ、いいこと教えてやるよ」

最近どうしようもないほど暇だったのだ。
ナイツオブラウンドが崩壊してキヨタカは忙しそうにしているけれど、諜報としての仕事は随分と楽になった。
今までずっと仕事をしていた時間が、自由時間になってしまったのだ。
恋人にはなかなか構ってもらえないし、何か暇を潰す方法はないか。
そう考えたとき、ふと長年の片思いが成就した相方の顔が浮かんだ。
結構な日が経ったというのに、付き合いたてのような初々しさのバカップル。
恋人に構ってもらえない腹いせと、ちょっとした暇潰しと少しの親切心でタマキに声を掛けた。

「いいことってなんだ?」

すぐに話に乗ってきたタマキにニヤそうになるのを我慢してソファーに手招きする。
カゲミツはワゴン車で作業中だ、しばらくここに来ることはない。
素直にソファーに座ったタマキの肩に腕をまわす。

「カゲミツのことだ」
「なんだよ」
「お前らいつも仲良さそうだけど、それだけじゃつまんねぇだろ?」
「別にそんなこと・・・」
「そう言うなって、俺がカゲミツの喜びそうなことを教えてやろうと思ってんのに」

声を潜めて言うと、タマキがごくりと喉を鳴らした。
カゲミツの喜びそうな、という言葉に反応したようだ。
込み上げてくる笑いを必死に噛み殺して話を続ける。

「カゲミツってさ、意外なんだけどな」
「もったいぶらずに教えてくれよ」
「・・・わかったよ、アイツ、ツンデレが好きみたいだぞ」

そんな話一度も聞いたことないけどな。
心でこっそりそう付け加えて。
しかしタマキはきょとんとしたままで反応が薄い。

「つんでれって、なんだ?」
「知らねぇのかよ」

面倒だけど一から説明をしてやった。
タマキはカゲミツが好きならやってみると自分の席に戻った。
ワゴン車からここに来たときのカゲミツの反応が楽しみだ。

タマキと話してから二時間が経った頃だった。
時計は5時前を指していてもうすぐ今日も終わりだな、なんて考えているとミーティングルームのドアが開いた。
パソコンに向けてたいた目をチラリとドアに向けると少し疲れ気味のカゲミツが立っていて、ニヤニヤとする顔を慌てて隠した。
ふわぁと大きく伸びをしながら入って来たカゲミツがソファーに座った。
戸惑うように何度も瞬きを繰り返している。

「どうかしたか?」
「いや、なんでもねぇんだけど・・・」

言葉を濁しながらもジッとタマキを見つめるカゲミツに吹き出しそうになる。
いつもならカゲミツが入って来たのを見るなり声を掛けるタマキが今日に限って何も言わないから不思議に思っているのだ。
なんで?どうして?言葉にしなくても顔に書いてある。本当に分かりやすい。
見つめたところで状況は変わらないまま、終業時刻がやってきた。
みんなが帰る準備を始める中、カゲミツがタマキに声を掛けている。

「タマキ、どっか具合悪いのか?」
「べ、別にどこも悪くない」
「・・・そっか、ごめん」

あからさまにしゅんとしたカゲミツを見てニヤニヤする顔を近くにあった雑誌で隠した。
タマキはそっけない表情を崩していないけど、目が驚いている。

「今日の晩飯、何が食いたい?」
「いつも俺にばっか聞かずに、たまには自分の食べたいものにしろよ」
「わかった、いつもごめんな」

本当に好きなのかとタマキが目線を寄越してくるが、気付かないフリで雑誌のページをめくる。
カゲミツはといえば、ここ最近で一番落ち込んでいるように見える。
それでも無理矢理笑顔を作り、帰ろうと肩を押す姿は本当にタマキのことが好きなんだな。
部屋を出る際、何か言いたげに振り返ったタマキに口パクで頑張れよと伝える。
ここまで落としたカゲミツを持ち上げるまでが、タマキの役目なんだから。
バタンと音を立ててドアが閉じ、一人になったミーティングルームで急に忙しくしている恋人の顔を思い出した。

「俺も会いたいなぁ・・・」

口に出したら気持ちが膨れ上がってきて、ポケットの中のケータイに手を伸ばした。

*

ヒカルの言う通りにしたら、カゲミツが見たこともないくらい沈んでしまった。
いつもは話しながら歩く帰り道も今日は無言だ。
声を掛けようか、でもヒカルには家に帰ってからと言われたし。
ぐるぐると考えていると、カゲミツが困ったように口を開いた。

「なぁ、俺なんかしちまったか?」

へ?と顔を上げると眉間を優しく撫でられた。
いろいろ考えていたせいで眉間に皺が寄っていたらしい。
家までもう少しだけど、これ以上落ち込むカゲミツを見ていられなかった。

「実はヒカルに言われたんだけど」

すべてを説明するとカゲミツが心底安心したように笑った。
その笑顔に気持ちがホッとする。

「俺のため、だったんだな」
「口に出すなよ、恥ずかしいだろ」
「でもまぁ、タマキに嫌われたんじゃなくて安心した」

照れくさそうに頬をかいたカゲミツが何だかとても愛おしく思えて。
手をひいて急いで家の中に入り、背中を壁に押し付けた。

「タ、タマキ?」

驚いたカゲミツにそっと唇を押し当てた。

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