付き合い始めて1ヶ月半、家に"行く"ではなく"帰る"ことにも慣れてきた。 最初はなかったけれどようやく本当に恋人なんだという実感も湧いてきた。 夕食はいつも二人だし、キスもいつだって好きなときに出来る。 しかしそう思った途端に今まで見えなかったものが目に入ってきてしまった。 ある程度は仕方ないと頭で分かっていても湧き上がってくる嫉妬心。 "恋人だから"という我が侭はどこまで許してくれるんだ? 我が侭はどこまで許される? そんなことを考えながら眠った次の朝。 いつものように覚めきらない目を擦りながらミーティングルームに入ると、アラタがタマキにぎゅっと抱きついていたのだ。 いきなり眠気も吹っ飛ぶ光景に挨拶もそこそこに二人に近付く。 「カゲミツ君、おはよー」 「あ、カゲミツおはよう」 それでもアラタは抱きついたままだし、タマキも何事もないように受け止めている。 タマキからすれば子どもの愛情表現なのかもしれないけど、とてもそうには思えない。 アラタのクリクリとした無邪気な目に見上げられてどきりとする。 何か言ってやりたい。なのに穏やかに笑うタマキを見て言い淀んでしまう。 結局嫌われたくないというへたれな自分が顔を出して、何も言えずに離れてしまった。 悶々とした気持ちを抱えたまま仕事をし、夜を迎えた。 本当は仲間と話してるだけですこし嫉妬してしまうのに。 ぐるぐるぐる、頭の中で葛藤していたのが顔に出ていたのかタマキが心配そうに声を掛けてきた。 「カゲミツ、顔が険しいぞ」 「ワリィ、ちょっと考え事してた」 「大丈夫か?話だったら俺が聞くぞ?」 そう言われても考え事はタマキのことなのに。 どうしようかと考えて、話してみることにした。 嫉妬なんて知られたくなかったけど、ずっともやもやするよりかはいい。 「今日の朝、アラタに抱きつかれてただろ?」 「あぁ」 「ああいうのはちょっと・・・」 「子どものやってることじゃないか」 やっぱり、な。 タマキの返事にガクリと肩を落とす。 子どもだからとかいう問題ではない。 自分以外にあんなに気安く触れさせないで欲しい。 この気持ちはやっぱり我が侭なんだろうか? 「でも俺はやっぱり嫌だ」 「カゲミツ」 「我が侭かもしんねぇけど、他の奴に触らせたくない」 分かってもらえないならせめて知って欲しい。 ありったけの気持ちを込めて伝えると、予想外にもタマキはふわりと微笑んだ。 最悪怒って出て行かれると思ってたから拍子抜けしてしまう。 「ありがとう」 「・・・え?」 「カゲミツがそう言ってくれたのが嬉しいんだ」 タマキの言いたいことが分からずにぱちぱちと瞬きを繰り返す。 「カゲミツは俺に言いたいことがあっても我慢したり控え目にしか言わないだろ?」 だからはっきりと言ってくれて嬉しかったんだ。 タマキはそう言って腕を伸ばして抱きついてきた。 早い鼓動が聞こえて、自分までどきどきとしてきてしまう。 「極端なのは無理だけど、もっと我が侭言っていいんだぞ」 「タマキ・・・」 「何も言ってくれないと遠慮があるのかなって心配になるんだ」 ぎゅうと力を込められた腕に今まで自分がどれだけ心配させてきたのかを思い知った。 嫌われたくないと思う気持ちは、裏返してみればタマキを信用する気持ちが足りなかったのかもしれない。 「今までごめん・・・」 「謝るなよ、そんなところも含めて好き、なんだから」 しかしタマキから返ってきた言葉はまたしても予想外で、赤らむ顔を隠すことが出来ない。 腰に回す腕を力いっぱい引き寄せて。 かっこよくなんて言えないけど、溢れ出すこの感情を伝えたい。 「タマキ、好きだ、すげー大好き」 「わかったからカゲミツ、痛いってば」 「あぁ、悪い」 タマキの声を合図に引き寄せる力を緩めた。 さっきまでくっついていてわからなかったけれど、タマキの顔は今まで見たことないくらい真っ赤だ。 「顔真っ赤だな」 「カゲミツだって真っ赤、っ・・・」 言い掛けた言葉は唇を重ねて飲み込んだ。 もう一度、今度は手加減して腰を引き寄せる。 「もうひとつ我が侭言っていいか?」 もっとキスしたい。 (そんなの我が侭なんて言わないのに) by転寝Lamp様(恋人初心者たちの五つの悩み) back |