▽03/02 00:58
カゲミツが目覚めてから数日が経った。
また来るよと言ったもののあれからまだ一度もあの部屋を訪ねていない。
別に捕まることが怖かった訳ではない。
あんな無能な警察に自分がそう簡単に捕まる訳がないのだ。
それにカゲミツは誰にも言っていないはずだ。
なのになぜまだ訪ねていないかというと。
そろそろ知らされているであろう事実を聞き、傷付いたカゲミツを直視することが出来ないからだ。
自分の愛していた人が、自分を殺し掛けた奴と逃げた。
大切だったはずの仲間達よりも一人の裏切り者を選んだ。
この事実がどれほどの傷付けるかなんて、とてもじゃないけど想像出来ない。
チラリと時計に目をやると、いつもならそろそろアジトを出る時間になっていた。
「行かないのですか?」
「・・・どうしようかな」
何も言わずとも考えたことを察したようにヒサヤが聞いてきた。
答えは濁したつもりだけど、きっと彼にはわかっている。
「そろそろお時間ですが」
「ヒサヤには敵わないね」
直視出来ない、それは傷付いたカゲミツを抱き締めてしまいそうだから。
本当は心配で心配で仕方ない。学生時代からずっと見ていたんだから当然だ。
ゆっくりと立ち上がり行ってくるとだけ伝える。
「お気をつけて」
そう軽く頭を下げたヒサヤを一瞬だけ見て夜の街へと足を踏み入れた。
病院に着いて念のために周りを見回してみたけれど人の気配は感じない。
やっぱりなと思いながらカゲミツのいる病室へと足を進める。
ガラリとドアを開けると、カゲミツは体を起こしてカーテンの少し開いた窓の方を見ていた。
「言わなかったんだ」
「どうせ言っても無駄だろ」
「まぁね、もしかして待っててくれた?」
近付きながらクスリと笑って横顔を見た瞬間、偽りの仮面が外れた。
ずっと窓を見たままだったから気付かなかったけど、カゲミツは泣いていたのだ。
肩を震わせる姿はいつも強気なカゲミツの面影などひとつも見当たらない。
大声を上げて泣いて喚きたいのを必死に堪えている、そんな泣き方だった。
「・・・やっと聞いたんだ」
「あぁ、目が覚めてからずっと待ってたんだけどな」
ここには来ない、キヨタカに言われたと小さい声で呟いた。
弱々しいその姿は脆く、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど不安定だ。
思わず伸ばしそうになった手をグッと堪える。
手を差し伸べるのは自分の役目じゃないことくらいわかっている。
「タマキは俺じゃなくてカナエを選んだ、それだけだ」
しかしカゲミツはタマキは悪くないといったように笑ったのだ。
目には溢れ出しそうなくらい涙が溜まっているというのに。
そんなカゲミツを見ているのはもう限界だった。
堪え切れず伸ばした片手でゆっくりと頬を撫でる。
「あんな奴、忘れちゃえばいいんだ」
言葉にした瞬間、今まで表に出せなかった感情が一気に流れ出す。
頬に手を寄せ、涙で濡れた目で見上げるカゲミツに柔らかく微笑んでから唇を重ねた。
ゆっくり、何度も繰り返しながらベッドに身体を横たわらせる。
「オミ・・・」
「俺に任せて」
その一言が効いたのか、カゲミツがゆっくりと目を閉じた。
じっと待っている姿を確認して、片膝をついてベッドに乗り上げる。
もう一度、今度はさっきよりもキスを深くしながらカゲミツの病衣を脱がせた。
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