▽02/23 01:59

俺だって一応男なんだから、キスのひとつやふたつしたいと思うこともある訳で。
だから思い切って行動に出たのに、恋人であるオミの反応は冷たいものだった。

通常業務はとっくの昔に終わった夜のワゴン車。
ヒカルはキヨタカのところに行ってしまったので車内には二人きり。
なのに無言でカタカタとキーボードを鳴らし続けるオミに声を掛けた。

「なんだい?」

なのにこちらを見ることなく気のない返事にちくりと心が痛んだ。
最近は少し仕事が立て込んでいてヒカルと三人でワゴン車に篭りっぱなしで。
当然二人の時間も取れず少し寂しい気持ちを抱えていて、だからまだ仕事が終わってないにも関わらず出掛けるヒカルを快く見送ったというのに。
オミは全くそんな気持ちに気付いていない。

「用がないなら話し掛けないでくれる?」
「用がなきゃ声掛けちゃいけねーのかよ」

気持ちに気付いて欲しくて少し拗ねたように言ってもオミをイライラさせただけだ。
でも、やっとこっちを向かせることが出来た。
このチャンスを逃がすまいと少し乱暴だけだけどネクタイを引っ張り、グッと顔を近付けるとオミに手首を掴まれてしまった。

「何、してるの?」

不機嫌そうに寄せられた眉に膨らんだ気持ちが萎んで行く。
珍しく迫ってみたというに、ひかれるなんて予想外だ。
手首を掴む腕を振り切って視線から逃れてもオミは何も言わない。
重い沈黙が二人を包む。


「・・・キスしてぇって思っただけだ」
「・・・・・・・・・」

沈黙に耐え切れなくなって正直に話してみてもオミは無言のままだ。
いたたまれない気持ちになってきて、涙が溢れそうになるのを必死に堪える。

「ちょっとどうかしてた、風に当たってくる」

少し涙声になってしまって格好悪い。
逃げるようにドアに掛けた手を掴まれた。
振り切ろうとしても、さっきと違い掴む手に力が込められていて出来ない。

「早く終わらせようと思ってたのに、どうしてくれるんだい?」

開いた手が顔をオミの方に向けさせた。
怒られると思ってみた顔は、言葉とは裏腹に優しくて驚いてしまう。

「早く終わらせて、思う存分愛し合おうと考えてたのに」

そんなこと言われたら我慢出来ないだろ?
ぽつりと呟かれた言葉に胸がどきんとしてしまった。
言い終わるが腕を引かれ、胸に飛び込んだ体を力いっぱい抱きしめて。

「目、閉じて」

オミの言葉に素直に従うと、待ち望んでいた感触が唇に落ちてきた。
角度を変えて久し振りのオミの唇を味わう。
ぬるりと滑り込んできた舌を絡められて、意図せず鼻から声が抜ける。
何度も何度も繰り返して、頭がぼんやりし始めた頃にやっと解放された。

「カゲミツもキスしたいとか思うんだね」
「うるせぇ・・・」
「でも今度からはもう少し色っぽく誘って欲しいんだけど?」

色気のカケラもないんだからと言うオミを小突く。
そう言われても、あれが出来る最大限だ。
キッと睨んでもオミは軽く笑うだけだ。

「まぁゆっくりでいいよ、初々しくて可愛いかったし」
「もうぜってぇーしねー!」
「そう?それは残念だね」

本気だと捉えていないのか、楽しそうに笑うオミに反論しようとすると口に人差し指を当てられた。

「とりあえず、仕事を早く終わらせない?」

ニッコリと微笑む顔があまりに綺麗で、反論も忘れて素直にこくんと頷いた。
明日キヨタカに資料を渡したら、そのまま休みにしてもらおう。
そんなことを考えながらもう一度パソコンに向かった。

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