▽02/16 02:09
タマキとデートがしたい。
そう思うのは恋人だから当然だし、何もおかしいことはない。
しかし付き合い始めておよそ一ヶ月。
毎日タマキの家で食事をし、何とか手を繋ぐことまでは漕ぎ着けたんだけど。
まだ一度もデートというものをしたことがないのだ。
デートのお誘いって難しい!
口に出せば多分すぐに叶えられることだと思う。
それでもなかなか口に出せないのは片思いが長かったことと、もしも断られてしまったら立ち直ることが出来ないからだ。
それにタマキを満足させるようなデートプランが思いつかない。
もしも楽しんでもらえなかったらと思うとつい躊躇ってしまう。
カゲミツとしてはタマキがいればどこだって楽しいし幸せだ。
しかしタマキも同じかと言われると残念ながら頷くことは出来ない。
この前ヒカルに相談したら本人に言えとだけ冷たく返されてしまった。
デートしたい気持ちは日に日に募るばかりだ。
そんな悶々とした気持ちを抱えたある日のことだった。
「美味しいオムライスの店を見付けたんだけど今度行かない?」
カゲミツがソファーでパソコンに向かっていると、カナエの話す声が聞こえた。
オムライスという単語に顔を上げると、相手はやっぱりタマキで笑顔で行こう、なんて返している。
そのままいつにするかと相談を始め、あっと言う間に待ち合わせ場所まで決まってしまった。
「お前もあんな風に誘えばいいだろ?」
「そう、だよなぁ」
こちらから見る限りはとても簡単そうに見えた。
まるでおはようと挨拶をするかのような気軽さでカナエは声を掛けていた。
自分は考え過ぎ、なんだろうか。
「とりあえずお前も誘ってみろよ」
考え過ぎんなとヒカルは軽く肩を叩いてからその場を去った。
その通りかもしれない。
もっと気持ちを軽くして今夜声を掛けてみよう。
そう決めると今までモヤがかっていたのがすぅーっと晴れていった。
「あの、タマキ、・・・ちょっといいか?」
夕食を終え、後片付けも終わった頃を見計らって声を掛けた。
努めて軽く、とは思うものの緊張から少し手が汗ばんでしまっている。
「どうした?」
タマキが手を拭きながらソファーの隣に腰掛けた。
ミーティングルームで座るときよりも少し近い距離にだって慣れてきたというのに。
デートに誘うだけでこんなに緊張してしまう自分が情けない。
「こ、こ、こ・・・」
「こ?」
タマキの黒い瞳が不思議そうに顔を覗き込む。
軽く軽く、挨拶でもするように、・・・・・・やっぱ無理だ!
「ごめん、何でもない」
なんでこんな言葉はスラスラと出てくるんだ!
しかしタマキはその言葉に納得してくれなかった。
「なんだよ、隠し事はなしだぞ!」
「か、隠し事なんかじゃねぇよ!」
「だってカゲミツさっきから挙動不審過ぎるだろ」
「それは緊張してるからだ、って・・・」
言ってしまって後悔しても後の祭りだ。
デートに誘うだけでこんなに緊張してるなんて、知られたくなかったのに。
でも変な誤解をされるよりはマシだ。
問い質してくるタマキに正直に答える。
「緊張って、何に?」
「タマキをデートに誘おうと思ったら変に緊張しちまって」
かっこわりぃよなと付け加えて下を向く。
しかしタマキはなぁんだとあっけらかんとした声を上げた。
「思い詰めた顔してたから、何かあったのかと思った」
「え?」
「明日世界が終わるって顔してたぞ」
「マ、マジ!?」
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
固まってしまったカゲミツにタマキが真面目な顔で向き直る。
「で、何言おうとしたんだ?」
「今度の日曜、服買いに行くのついて来てくんねぇか?」
「ダメだ」
聞き直した時点でてっきり了解だと思っていたのに一瞬の間もなく否定されてしまった。
ぽかんとした顔でタマキの顔を見つめる。
「ついて来てくれじゃなくて一緒に行こう、だ」
「タマキ・・・」
「だからはい、もう一回」
「・・・今度の日曜、一緒に服を買いに、行こう」
「それでいい」
にっこりと笑ったタマキにつられてカゲミツも笑顔になる。
カゲミツは気を使い過ぎだと聞こえた気がするけど。
デートの約束を取り付けられたカゲミツには聞こえていなかったのだった。
*
後日、カゲミツのいないミーティングルームでヒカルとタマキが談笑していた。
「やっとカゲミツがデートに誘ってくれたんだ」
「どうだった?」
「かなり緊張してたな」
「はぁ〜、アイツらしいな」
「そういうところも可愛くていいだろ?」
「もっとしっかりしろとか思わねーの?」
「少しずつかっこよくなるのを見るのもいいかなって、最近思うんだ」
クスリと幸せそうに笑ったタマキにヒカルが呆れる。
バカップルもいい加減にしてくれよというヒカルの呟きはタマキにも、カゲミツにも聞こえることなく宙に消えた。
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