▽03/02 00:51

夜も更けた午前2時の病院。
ずっと静けさを保ったままの病室にカツンカツンと小さな靴音が響く。
なるべく音を立てないように近付き、そっとベッドを覗き込む。
穏やかそうな寝顔は今日も変わらない。
安堵した気持ちと胸が焦げるような気持ちが同時に湧き上がってくる。

「一体いつまでそうしているつもりなんだい?」

小声で呟いて頬を撫でてみたって反応を示さない。
彼は半年もの間ずっと眠り続けているのだから。

「早く、目を覚ませよ」

目を覚ましてしまえばこうして寝顔を眺めることも出来なくなってしまう。
それでも早く目が覚めて欲しい。
敵同士になっても元気なお前に会いたいんだ。
口には出せない想いを軽く重ねた唇に込めた。

「明日もまた来るから」

聞いていないとわかっているのに、そう告げて部屋を出た。


カゲミツか撃たれてから事態は目まぐるしく変わった。
リニットが裏切り者だとバレてタマキに撃たれた。
重傷を負ったのにしばらくすると回復して、組織を裏切って二人で逃げた。
カゲミツはまだ何も知らずに眠り続けているのに。
思い出しただけで腹の中が煮え繰り返りそうだ。

「スパロウ、落ち着いて下さい」

そんな様子を察したのかヒサヤが差し出した水を一気に飲み干す。
それでもぐつぐつと湧き上がる苛立ちは抑えられない。
握り締めたカップを乱暴にテーブルに置いた。

「何をそんなに苛立っているのですか?」
「ちょっと思い出してただけだよ」
「そうですか」

あまり表情を出さない従者の顔が少し曇ったのが見えて我に返った。

「さぁ、そろそろ時間だ」

苛立ちを隠して立ち上がると、いつもの無表情な顔に戻り後をついてきた。

そして今日もまた、夜がやってくる。
半年間通い慣れた部屋のドアをゆっくりと開くと、何も聞こえないはずの部屋からぽつり小さな声が聞こえた。

「誰だ」
「・・・目が覚めたんだね」

警戒心を張り巡らせ緊張した声色に構うことなく一歩踏み入れる。
カゲミツはきっとその一言だけで自分を判別出来るはずだから。
カツン、カツンと一歩ずつ近付くとチッと舌打ちするのが聞こえた。

「もう殺しに来たのか?」

ほら、やっぱり。
今日目覚めたばっかなのにと諦めたように笑うカゲミツの言葉を訂正する。

「ただのお見舞いだよ」
「嘘だ」
「今のお前を殺す必要がない」

あえて棘のある言い方で本心を隠す。
裏を返せば殺せない。
それを悟られないように口の端を吊り上げた。

「リニットが裏切り者なのはもうバレてるからね」
「・・・、じゃあ何しに来たんだよ」
「だからさっきも言っただろ?お見舞いだって」

月明かりに照らされた顔が疑うようにこちらを見つめてくる。
本当は怖いんだろうか、シーツをぎゅっと握り締めている。
どうやら信じてくれる様子はないようだ。
まぁ当然だろうと心の中で頷きベッドサイドをチラリと見た。
綺麗な花が入れてあるのを確認して視線を元に戻す。

「今日はこれで帰るよ」

手に持ったものをバレないように体の後ろに隠してニヤリと笑う。

「また来るよ、俺を捕まえたければ無能な上司に報告すればいい」
「オミ!」

カゲミツの呼び掛けに振り返ることなく部屋を出た。
ばたんとドアを閉めて、ようやくふぅと深い息を吐き出して顔を下に向けた。
手に持っていた小さな花束をぎゅっときつく握り締める。
目が覚めてよかった。けれどカゲミツはまだあの事実を知らない。
ぐるりぐるり。
いろいろなことが頭の中を駆け回ったけれど、結局のところ自分には何もすることは出来ない。
ただ昨日萎れ掛けていた花瓶の花が新しいものになっているのを見て、なぜだか少し泣きたくなった。

*

一途っぽいオミさんを目指してみました
最後はカゲミツを心配しているのは自分だけじゃないんだという安心感と少しの寂しさで泣きたくなっていればいいと思います。
しかしこの流れから思い通りに続けれるのかが不安です←

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