▽01/12 00:58

「はぁ・・・」

今日もまた自分が思い焦がれてたまらない人は、隣に立つ男を見ながら笑うのだ。
それはとてもとても幸せそうに。
その笑顔を見てやっぱり好きだと思うのと同時にちりっとした痛みが胸を焦がす。
俺の告白は一体どうなってしまったのだろうと。
もちろん振り向いてくれる可能性なんてほとんどないと分かっていた。
それならばこの報われない恋を、その言葉や態度できっぱりと終わらせて欲しかった。
そうじゃなければとても自分の手で断ち切れそうにないから。
けれど彼は今まで通りに声や笑顔を惜し気もなく自分に向けてくれるのだ。
やり切れなくなる。
終わらせなければいけないのに、変な期待を抱いてしまう。
タマキを見つめたまま、また深い溜め息を吐き出すと後ろから声を掛けられた。

「カゲミツ、コーヒーでも飲むかい?」

声と同時にことんと音を立ててデスクに自分のカップが置かれた。
ポンと肩を叩かれようやくタマキから目を離せた。

「サンキュ」
「素直に言われると調子が狂うなぁ」

振り返るとオミもカップを片手に立っていて楽しそうに笑っている。
オミがいれてくれたコーヒーに口をつける。
想像した通り、自分好みの味だった。

「今日の夜飲みに行かないか?」
「あぁ、明日休みだしな」
「奇遇だね、俺も明日休みなんだ」

明らかな嘘に笑ってばーかと答えてやる。
可笑しそうに二人で笑うこの瞬間にとても救われている。
オミが俺を元気づけるためにやっていることは気付いている。

「じゃあ仕事終わったらね」

くしゃりと髪を撫でてからオミは目の前を立ち去った。
先程まで感じていた暗い気持ちはもうどこかへ行っていた。



「今日は楽しく飲もうじゃないか」

今日は居酒屋がいいというオミの希望で久し振りにバンプアップ以外の場所に来ていた。
たまにはいいだろ?と笑っているがそれも気を使ってくれているのだとわかる。
仕事の愚痴でも何でも聞いてやるよとジョッキをぶつけてくるオミに笑顔で返す。
オミは傷付いた俺をこうしていつもさりげなく助けてくれるのだ。
手際よく俺の好みに合わせたつまみを注文して、俺が話すと嫌な顔ひとつせず真剣に聞いてくれる。
コイツといると心地いいのだ、とてつもなく。
心地よすぎてずっと一緒にいて欲しいと思ってしまうほどに。
俺が好きなのはタマキなはずなのに、自分の気持ちがわからなくなってしまう。

「カゲミツ、聞いてる?」
「あぁ、ワリィ」
「俺の前で考えごとはやめて欲しいね」

口調は厳しいが目が笑っている。
その証拠にオミは俺の髪をぐしゃぐしゃと乱してくる。

「やめろよ」
「カゲミツが話を聞いてないからだろ?」

個室の居酒屋でいい大人の男がじゃれ合ってるなんて気持ち悪い。
でも俺にとってはこのくだらない出来事がとても大切なものなんだ。


むしゃくしゃしていたのに翌日の休みが重なって随分と飲み過ぎてしまった。
ふらりふらりと歩く俺の腕をオミががっちりと掴む。
その手が大人の男らしくて、オミも成長したんだななんて酔った頭で考える。
そんな酔っ払いを引き連れるオミはわざとらしく溜め息をついて見せた。

「危ないから真っ直ぐ歩いてくれないかい?」
「・・・手、貸せ」

日付はとうのむかしに変わっていて、道を歩くのは自分達しかいない。
酔ったせいでマトモに頭が働かないまま腕を掴むオミの手に自分の手を重ねた。
そして腕から手を外させぎゅっと指を絡める。
恋人みたいに繋がれた手にオミは立ち止まってしまった。

「カゲミツ?」
「家まで、引っ張れ」

ほら早くと言わんばかりに顎を動かすとオミは前を向いて早足で歩き始めた。
酔っているせいか繋いだ手は温かく、耳はほんのり赤い。

「もっとゆっくり歩けよ」

その一言にオミがびくんと肩を揺らした。
一瞬の間を置いて繋いだ手を力強くひかれた。
足がもつれてどんとオミの胸に飛び込む格好になってしまった。

「あんまりドキドキさせないでくれる?」

耳元で低く囁かれて顔に熱が集まる。
オミの鼓動がどくどくと早鐘を打っている。
何が起こったのかわからずにいるとオミの長い指に顎を掬われた。
そのまま掠めるようにオミの唇が自分のものに触れた。
その瞬間ぱっと体を離され、何事もなかったかのようにオミは歩き出した。
手は繋いだままなのでもつれそうになりながらその後を追う。
初めて男同士、しかも恋していた人は違う人とキスをした。
普通なら嫌悪感が湧いてきそうなものなのに、なぜか満たされたような気持ちが体中に広がっていく。
なんで?どうして?
タマキを前にしたときみたいに胸がドキドキしてきた。
俺が好きなのはタマキなのに、なのになんで・・・?


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(この気持ちの答えはどこ?)

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