▽01/07 00:00

「明日、少しの時間でいいから俺にくれない?」

そうカナエが言ったのは昨日の昼休憩のことでカゲミツはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
せっかくの休みをなぜカナエと会わなくてはいけないのか。
何か断る理由はないかと考えていたのだが、いい理由が見付からない。
そうこうしているうちに待ち合わせの時間と場所を告げられて今、カナエと二人で夜のシンジュクを歩いているのだ。

「どこに行くんだよ」
「まだ内緒」

てくてくと先を歩くカナエにカゲミツがだるそうに後をついていく。
何だかんだ言って来てくれるところが優しいなとカナエは心の中で思った。

「何にやにやしてるんだよ」
「カゲミツ君は優しいなって思っただけだよ」

はぁ?と大きな声を出したカゲミツを慌てて宥める。
何考えてるんだと警戒心丸出しのカゲミツにカナエが手を振った。

「危ないところじゃないから」
「じゃあ行き先を教えろよ」
「ここだよ」

カナエが突然立ち止まったのでカゲミツはぶつかってしまった。
ずっとカナエの背中だけを見ていたので気付かなかったがここはスラムの中の教会だ。
何となく嫌な予感がしたカゲミツが一歩下がるとカナエに手を掴まれた。

「嫌だ」
「カゲミツ君、入ろう?」

眉を下げた顔は頼りなさげだが、掴まれた腕に込められた力は強い。
絶対帰さない、言葉には出さないがそう言われているようだった。

「仕方ねぇな」
「ありがとう」

カナエはカゲミツの腕を掴んだまま教会のドアを開いた。
夜なわざわざスラムの教会に来るやつなんてそういない。
中を見渡したがカナエとカゲミツ以外には誰もいないようだった。
カナエは依然カゲミツの腕を掴んだまま迷いなく歩く。

「ここに座って」
「なんでここに来たか話すか?」

カゲミツの問い掛けにカナエが頷いた。
二人並んで座るとカナエがステンドグラスを指差した。

「これを見せたかったんだ」

そこにはステンドグラスが月の光を浴びてきらきらと輝いていた。
あまりの美しさにカゲミツが息もつかずにじっと見つめている。
しかしあっという間に月の光は消えてしまった。

「ほんの少ししか見れないけど綺麗でしょ?」
「あぁ、綺麗だった」

いつになく素直なカゲミツにカナエがふわりと微笑んだ。
カゲミツは暗くなってしまったステンドグラスを見つめている。

「子供の頃一人でここに来てて偶然見つけたんだ」

アマネにもレイにも、タマキ君も連れてきたことがないと続けたカナエにカゲミツが目を瞬かせた。

「誕生日プレゼントなんて考えたことがなくて」
「別にいらねーのに」
「俺が祝いたかったから」

お誕生日おめでとう。
そう手を重ねて微笑まれカゲミツは何も言うことが出来なかった。
少しの間があってそろそろ帰ろうと立ち上がったカナエにカゲミツも続く。

「カナエ」
「どうしたの?」
「また、来てもいいか?」

カゲミツの申し出にカナエが驚いた顔してからゆっくりと笑った。

「うん、また来よう」

カゲミツ君から言ってくれるなんて予想外だな。
沸き上がる喜びを胸に、二人は夜のスラムを歩き始めた。

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