▽01/04 00:00

「カゲミツ、ちょっといいか?」

昼休憩が残り五分となったとき、タマキが遠慮がちに声を掛けてきた。
他の人に聞かれたくないのか、きょろきょろと見回している。

「外に出るか?」
「うん・・・」

急ぎ足でミーティングルームを出て射撃場へと向かった。
ここなら落ち着いて話を出来るだろう。
緊張した面持ちのタマキに出来るだけ優しく問い掛けた。

「どうしたんだ?」
「今日の夜・・・暇か?」
「暇だけど・・・、」

返事をしてカゲミツは思い出した。
今日は自分の誕生日だ。
まじまじとタマキの顔を見つめると恥ずかしそうに顔を逸らされた。

「よかったら、少し付き合ってくれないか?」

本当によかったらでいいんだけど、と付け加えたタマキの言葉にぶんぶんと首を横に振った。

「誕生日にタマキから誘ってもらえるなんて幸せだ」

夢みたいだと笑うカゲミツにタマキの胸がどきりと高鳴る。
柔らかい表情をもっと見ていたかったが、もう休憩時間も終わりだ。
そろそろ戻ろうとカゲミツを促してミーティングルームに戻った。

夕方五時過ぎ、特に急ぎの仕事もなかったので二人でミーティングルームを出た。

「どこに行くんだ?」
「これ・・・前に見たいって言ってたよな?」

タマキが取り出した映画のチケットを見てカゲミツが驚いた。
確かに見たいと言ったがそれは一週間以上も前の話だ。
すぐに忘れてしまいそうなほど小さな話を覚えていてくれてカゲミツは喜びを隠せない。

「覚えててくれたんだ」
「カゲミツあんまりそういうの言わないだろ?」

だから、と伏し目がちに語尾を小さくして言ったタマキの手を掴んだ。
びくっと肩を揺らしたタマキに構わずに気持ちを伝えた。

「本当嬉しい、幸せ」

道の真ん中で何やってるんだと思いながらもタマキはその手を振り払うことが出来ない。
嬉しい気持ちを押し隠して時計に目をやった。

「カゲミツ、映画館に向かおう」
「あ、あぁ、そうだな」

パッと離されてしまった温もりに少し寂しさを感じながらも二人は映画館に向かった。

「結構空いてるんだな」
「上映終了が近いからかな」

真ん中後ろ寄りの席に並んで座った。
ひじ掛けの上にポップコーンを置いて始まるまで話をしながら食べた。


「すげー面白かったな!」
「こんなに面白いとは思ってなかった」

興奮して感想を話すカゲミツを見てタマキはホッと息をついた。
すると次は落ち着いた声でカゲミツが口を開いた。
照れているのかぽりぽりと頬をかいている。

「タマキ、まだ時間あるか?」
「どうした?」
「お礼に飯をおごるよ」

こんな格好だからあんまりいいとこ行けねーけどと言ったカゲミツににっこりと微笑んだ。

「じゃあ今度私服で食事に連れてってくれよ」
「あ、あぁ・・・」

本当はカゲミツとまた二人で出掛けたいから。
でもそんなこと口に出せないから楽しみだとだけカゲミツに伝えた。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、二人はバンプアップのビルの前に着いてしまった。

「今日はありがとな」
「カゲミツに喜んでもらえてよかったよ」
「なんか・・・デートみたいだな」

はにかんだ表情と言葉につい見とれてしまった。
タマキ?と声を掛けられ漸く我に返った。

「悪い、気持ち悪いこと言って」
「そんなこと思ってない!」

勢い余って出てしまった声にカゲミツが驚いた。
やんわりと微笑む姿を見て、信じてないなと何となく思った。
信じて欲しいのと自分の気持ちを伝えたくて唇をカゲミツの頬に押し付けた。

「誕生日おめでとう!」

ぽかんとしているカゲミツが可愛いが、それよりも自分の行動に恥ずかしさが込み上げてきた。

「食事、楽しみにしてるから!」

それだけ叫んでタマキは自宅の方へと全力で走り出した。
取り残されたカゲミツはただ呆然とタマキが走って行った方向を見つめていた。

「・・・・え、ええー!」

状況を理解してカゲミツが叫んんだ頃にはもうタマキの姿は見えなくなっていたのだった。

*

たまかげっぽくしようとしたのに、かげたまっぽくなってしまった気がする・・・


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